36.不毛ワールド最終話~笑ってくれればそれで良し2【完】

36.不毛ワールド最終話~笑ってくれればそれで良し2【完】
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一歩踏み出しかけていたアタシの足は、凍りついたように空中で止まる。「行ったら呪う」

 お姉だ。怖い!

「自分達だけ遊びに行ったら、絶対に呪う!」

 あふんっ……高い声で叫んで、まずうらしまが倒れた。

「で、でも予約してるし。佃煮はお姉の分ももらってきたげるし。帰ったら掃除も手伝うし」

「そそそうですぅ。楽しみにして……」

「呪うッ!」

 アウッ……今度はオキナが倒れた。このお姉に本気で呪われたら生きていけへん。それは本能で分かっていた。

「よよよ予約取り消しの電話をしますぅぅ」

 ワンちゃんがその場にヘナヘナ座り込んだ。この瞬間、アタシらの敗北が決定したわけや。仕方ない。つくだに工場見学は諦めよう。

「アタシ、バケツ持ってくるわ。桃太郎は水道にホースつないで。そのへん水で洗い流そう」

「うらしま、下水業者に電話なさい。あなたに相応しい役目だわ」

 アタシら姉妹は、それぞれ側の奴に的確な命令……いや、指示を与える。ところが、だ。

「その必要はない」

 ウンコまみれのかぐやちゃん、ものすごく精悍な表情でアタシらを見回した。ああ、そうや。この人の始末(掃除)が先やった。

「おフロ入れるの嫌やな。バスタブ汚れるやん」

「そうね。かぐや様には庭で真っ裸になってもらって、ホースで水をかけましょう」

「いや、お姉。それ、さすがにマズない……?」

 突如、空に暗雲が立ち込めたのはちょうどその時だ。

「ギャオーーーーッッッ!」

 ウンコまみれのかぐやちゃんが一声、吠えた。

「ギャギャオーーーッッ!」

 そうや。かぐやちゃん、この人は胡散臭いながらも気象を操る能力を持って(?)たんや。

 闇は更に深まる。稲光が空を走り、落雷の轟音が周囲を揺るがす。

「キャーッ! リカ殿ぉ!」

 桃太郎がアタシにしがみついてきた。

 ピカッと光がきらめき、アタシは何かを思い出す。感電少女としてのあの忌まわしい感覚。

「忌まわしい? いや、むしろ気持ちよかったで?」

 ピカッ! ピカーッ! 頭上で強烈な発光が起こった。全員の顔が白く浮かび上がる。手足にピリピリと電気が走り、誰かが甲高い悲鳴をあげた。爆音が響く。アタシらは次々と雷に打たれた。

「ギャッ!」

「ギャーッ!」

 身体がフワリと浮遊する。ああ、逆に気持ちいい……。佃煮工場に行くつもりがアタシらの魂、宇宙へ飛んでいく感じや。

 ゴキブリ騒動、雨漏り騒動に続いて、今度はまさかのウンコ騒動。これはアカンで。さすがのアタシも、虚脱感で思考能力停止したもん。先の2つとは質が違う。今回は復興(物理的、精神的)には時間がかかるやろう。

 だからそれまで、サヨナラや。


HJMG!不毛さん』完