36.不毛ワールド最終話~笑ってくれればそれで良し1

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 百年の恋もさめる汚さや……。

 事件は起こった。最悪のタイミングと、最凶のインパクトで。

 佃煮工場見学当日。その早朝のこと。突然、庭先でドン! と凄まじい音がした。

「何や何や」浮かれて早起きしていたアタシら、ゾロゾロと庭に出る。

「な、何なん? メチャ臭うやん!」アタシは鼻をつまんだ。これは下水の臭い──つまり。

「……ウンコの臭いや」

 庭に埋まってた下水管が突然、破裂したらしい。下水ってことはお風呂の排水や、当然トイレの排水が混ざってるわけで。

「だから、つまりウンコの臭い……」

 独特の色した液体が庭中あちこちに飛び散っている。

 それはそれは凄惨な光景やった。

「ヒイッ! アレを見よ」

 桃太郎が叫んだ。指差す方向を見て、アタシらも悲鳴をあげる。

 うず高く積み上げられた電化製品(既にウンコまみれ)──その頂上にスックと立つ人影が。

「……ワシとしたことが思わぬ攻撃を……カードは既に切られた……調査内容の確認を…主に北部方面の…………」

 あらぬ方向むいて何かブツブツ言ってる。

 どこと交信中ですか──?

「か、かぐやちゃん?」

 オキナの声に反応して、絶世の美青年はクワッとこっちを向いて凄まじい勢いで走ってきた。

「アッ、アーッ。来ないでっ!」

 さしものオキナも後ずさる。そう、かぐやちゃんはウ○コまみれになっていたのだ。

「今更伏せ字を使っていかがいたすか」

 珍しい桃太郎のツッこみ。

 背後ではうらしまがかぐやちゃんを見つめながら「あふっ……あふんっ……」と喘いでいる。多分、微妙などこかの感覚で羨ましがってるんや。何でもありの変態や、うちの義兄は。


「突然、地面が割れてこの固……液体(?)が噴き上がってきたのだ」

 ーー意外と冷静にかぐやちゃん、状況の説明を始める。彼はその固……液体(?)と戦ったらしい。果敢な行動や。

「想定外の攻撃だ。匂う?」

 自分の身体をクンクン嗅いでる。わざわざ尋ねるって事は、もう嗅覚がイカレているようだ。

「だ、大丈夫。何も臭わんで。な、みんな?」

「う、うん……」

「まぁ……」

 みんな、微妙なしかめっ面で一歩、身を引いた。

「ボ、ボクは鼻炎だからゴフッ……平気だよ。鼻詰まってるから臭いなんて感じな……ゴブッ! ガボッ!」


 オキナがある意味涙ぐましい感じでかぐやちゃんに近付く。


「ざまぁみろ、やで。アタシに鉄ゲタ履かせたバチが当たったんや」

 根田さんの件で悟りを開いた筈なのにアタシ、かぐやちゃんの苦境を見てほくそ笑んでた。悪いけど、気持ちいい。胸のつかえが取れて気分が晴れた。

「じゃあ、アタシらはそろそろ……。なぁワンちゃん?」

「そそそうですね。つくだに工場の予約は朝イチなので」

 支度していたかばんを背負うと、お姉の背中が殺気走ったのが分かった。

「リカ、ワン、佃煮が何ですって? 今日は全員で修理と片付けよ」

 ニッコリ笑った笑顔が、さすがに引き攣っていた。できればここから逃げ出したい。佃煮工場でもどこでも行きたい。でも大家としての責任感と、かぐやちゃんへの想い(そんなものがまだ生きているのかは分からんが)が、お姉を辛うじて踏み止めたみたい。

「いや、でも時間が。な、ワンちゃん」

「そそそうですよ。ね、桃さま」

「ヒヒッ!」

 アカン。桃太郎はまだショックから立ち直れてない。

「お、お姉。悪いけどアタシらは行く……」

 立ち去りかけたその時だ。


「のろう…………」静かな声が響いた。


つづく


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