放課後のプール。何せギャラリーがスゴイ。
この対決、終業式が終わった直後なんて絶妙な時間にセッティングされたものだから。夏休みを前にして浮かれ気分のヒマな生徒たちがプールサイドに駆けつけたのだ。
「さっさとネタをやれ!」
「オレたちを笑わせろ!」
見ず知らずの奴等に高圧的に怒鳴られる。
「ヒィ……」
海パン一丁で鍋持った僕に、一体何の芸を要求するんですか。
「何で……何でこんな展開に? 何で僕、こんな所でこんな格好してこんな……」
じんわり涙が溢れる。
「この話って、こないだまで普通のギャグ物だったじゃないか。そういう企画だったじゃないか」
側にいた水口楓がチラッとこっちを見る。
「普通のギャグ物? 企画?」
「い、いや、何でも。こっちのことです」
「そうですか。プールにジャパーン! JAPAN! ふふふっ」
下らないことを言っては一人で笑ってる。そんな水口楓、クソ暑い中サラッサラの髪をなびかせてギャラリーに手を振りながらこう言った。
「で? 原田君は本当にトリちゃんの事が好きなんですか? 本当に? 本ッ当に?」
直球の質問に、僕はさすがに頬が熱くなるのを自覚する。
「いや、好きって言うか……まぁ、うん……まぁ」
ハンッ、と水口楓。僕を憐れむ視線。
「よりによって……。言ったでしょうが。2次元にハマるべきだと」
「いや、それはちょっと……」
嫌だよ。人として。
※
ここ数日で事態は急展開を見せていたのだ。
ちょっと時間を遡ろう。事態が動いたのは今から3日前。
コトの起こりはバカヤンキーゲロ魔・鴨はじめ(最近、奴はこう呼ばれてる。全裸逆さ吊りと付け加えられることもある)の挑戦だった。
どちらがトリ先生に相応しいか云々。受けてたった覚えなんてないのに、このザマだ。
部室に来なくなっただけじゃない。夏休み直前のこの時期に勝手に『新・字ャっ部』なんてモノを作ったらしい鴨。ネオ・字ャっ部と読むらしい。聞いたこっちが恥ずかしくなる響きだ。
実質、届けも出してなきゃ活動もしてない。もっぱらトリ先生に付き纏っているだけの部活動(?)なわけだが。この戦いに勝った方がトリちゃんと付き合うんだ、なんて勝手に息巻いてる。
「不快なことになってきおったわ」
トリ先生も、この展開は面白くないらしい。
「いくらトモダチがいないワシでも、ゲロヤンキーと気持ち悪い系メガネは御免じゃ」
それはそれで僕は傷付くんですけど。僕、気持ち悪い系メガネなんですか?
1人悶々と落ち込む僕をよそに、曽良三々は激怒した。
当然だ。『新・字ャっ部』なんて許しては元祖・字ャっ部の沽券にかかわるからな。
「めんどくさい めんどくさいこと ばっかりだ──曽良三々」
黒作務衣は一句詠んでから頭を抱えた。問題山積みらしい。弟の原因不明の高熱は三日経った今も尚、下がる気配はないという。
「ゆうれいが とりついたんだ 弟に──曽良三々」
どうやら本気で除霊方法に関して悩んでるみたい。この人の思考もよく分からないよな……。
「あの副部長、赤さむ……ネオ・字ャっ部の鴨先輩が来ましたよ」
部室のドアが細く開いて、そこから赤い姿がチラリと見えたので僕は曽良三々を呼んだ。
「あっ、しーっ! しーーーっ!」
鴨はじめ、必死の形相で僕の手を引っ張る。
「ジャージ返しに来ただけだから。こないだ借りたやつ」
自分からケンカ売って出てったくせに鴨はじめ、部室奥の曽良三々の黒作務衣姿を見てはビクッと身を震わせてる。これがトラウマか──?
「洗濯したから返すの遅くなって悪かったぜ」
「はぁ」
ヤンキーは意外とこういうとこ、義理堅いらしい。ジャージはキレイにたたまれてビニールに入れられていた。
「そ、それで?」
奴はキョロキョロと書道室内を見回す。「何か?」と言うと、目に見えてうろたえる。
「トリ先生ならいませんよ。自転車がパンクしたから修理に行ってるんです」
「また自転車かよ」
「はぁ」
よくよく自転車絡みで不運が続く人だ。それに嫌な雰囲気を感じたのか、最近はバームクーヘンがない限り彼女は部室に姿を現さなくなっていた。
「そもそも何で突然、トリ先生を追い掛け回すようになったんですか。あんたと彼女の間に、何かラブ的な要素、ありましたっけ?」
何もない筈だ。僕は少し意地悪く聞いてやった。すると鴨はじめ、急に頬を赤く染めた。
「遠足行った時、気付いたんだ。あのブルマーと軍用ブーツのセットがこう……こう……俺様の胸にグワッときてな。特に軍用ブーツがイイ! あの分厚い靴底が……イイ!」
今更そこか! しかも靴底って……。それは鴨はじめ的・妙なポイントに訴えかけるものらしい。靴底って……あ、でも何となく分かるかも。踏まれたい、みたいな? 軽く踏まれてみたい、という感じの?
そんな僕たちをじっと見つめる曽良三々に気付いたのはその時だった。意外と冷たい視線である。
「字ャっ部崩壊の危機だな。クライシスだ」
わざわざ英語に置き換えた。
「鴨という人間は別にいらないんだ。世の中にとって既に不要な存在だ。な、原田タロー」
「いや、同意を求められても。さすがに……」
「でも部活にとっては必要なんだ。腹立たしいことに。必要最低人数ってのがあるから」
メン高の部活動は6人から認められるらしい。それ以下だと同好会という扱いで、活動予算が下りないのだ。
何の為にトリちゃんが部長として参加しているか分かったか。そう言われ、僕にも合点がいった。先生を部員に数えて通用するのかどうかは甚だ疑問だが。それはある意味苦肉の策だったんだ。
そんな中、確かに言える事が一つ。今、鴨はじめに抜けられては、字ャっ部は部活動として成り立たないという困った事態に陥るというわけだ。
「プールだ、プールだ」
最終的に面倒臭そうに曽良三々が言った。
「は、プール?」
唐突過ぎる。鴨はじめですらキョトンとして副部長を見つめた。
「ちょうど夏だし、泳ぎで勝負だ。貴様と原田、潜水百本勝負。貴様が負けたら字ャっ部に戻って来いよ」
反対すりゃいいのに鴨はじめ、ムゥと唸って頷いた。
「潜水百本だな。負けはせんぞっ!」
「ムムムリですったら! そんなに潜水したら死にますってば! それに知ってるでしょ。僕、泳げないんです。プールが憂鬱なんです。水が怖いんですっ!」
曽良三々、ニヤッと笑ってこっち見た。ああ、イジメっ子の表情だ。それから慌てて首を振る。僕が負けたら元も子もないと気付いたのだろう。
「んじゃ、プールサイドで刺激ある料理対決」
何、その思いつき?
「弟に取り憑いた霊を慰めるという意味合いも込めて。元々、祭りとはそういった主旨の下で行われたものらしい」
疫病退散を目的として始まった伝統的な祭りのこととか思い出してるのかな。
「だからって何で突然イベント色出してきたんですか。刺激ある料理対決って何ですか。うちは書道部ですよ? 大体あんた、料理なんてできないでしょうが!」
「失礼な」
憤慨した感じで曽良三々が僕を睨んだ。
「卵料理なら何とかできる。むしろ得意料理」
「ああ、そうですか!」
どうせゆでたまごの達人とか、いりたまごの王子とかそんなだろ。
「じゃあ、貴様はどうなんだ? 目玉焼きの貧乏人か?」
「何ですか、それ。失礼でしょうが。それに、うちは両親共働きなんで月・木曜は僕が夕食当番してるくらいですよ。そこそこ凝った料理もできるんですよ。最近は部活が忙しくて(てか、あんたらとダベってるせいで)サボリがちですが」
つまらなさそうに「ふーん」と頷いて、黒作務衣は勝手に宣言した。
「原田タローが負けたら字ャっ部は廃部する!」
赤作務衣も勝手に「受けて立つぞ!」とか言ってるし。
廃部になったらなったで、僕としちゃバンザイなんですけど?
ズズ……とお茶飲むと、眼鏡が曇った。
※
『沢山の方が集まってくれました。ここメン高プールサイド! いよいよ刺激ある料理対決の始まりです!』
大掛かりにマイク使って声を張り上げたのは、なぜか島田だ。そのすぐ横で宮野が顔を引き攣らせている。
「お前、何やってんだよ! 何でこんな対決の司会なんて引き受けてんだよ。嫌ならハッキリ断れよ」
「でも、オレ……宮野さんみたいに男らしくないし。原田くんがおかしな対決するって聞いて面白そうって思って、つい……」
「バカっ! しっかりしろよ」
アイツら、仲いいな。クソー、付き合ってんのかな?
『字ャっ部対ネオ・字ャっ部! 互いの存続をかけての料理対決です。これは書だけじゃなく、家庭でのお役立ち度をアピールする絶好の機会ではないでしょうか。現代では男は料理ができてナンボ。お母さん喜ぶ。彼女も喜ぶ』
……島田の奴、盛り上げ方うまいな。何だかギャラリーも沸いてるし。
『刺激ある料理ったら島田、どんな香辛料がいいと思う?』
『スイマセン。オレ、今ヤらしいことしか考えてなかったです』
『ソレ、どんな刺激だよ!』
宮野と二人で調子に乗ったコント(?)まで始める始末。
『対決を前にして、ここでスペシャルゲストのトリちゃんにインタビューです』
プールサイドにノコノコ現れたブルマー姿。マイクを向けられトリ先生、目を見開いて歯茎むき出しに笑ってる。かなりテンパってるみたいだ。
『お、お、お腹がすいてる時って食べ物の話題しか出てこないね。例えばお味噌汁の具は何が好きですか? とか』
『は、味噌汁? いきなり何の話? はぁ……気持ちは分かりますけど?』
島田を始め、ギャラリーがさっと引く。しかしトリ先生、悲しいことにそれに気付かない。
『ト、トモダチがお腹空かせてたらワシ、自分の肉や内臓をあげるよ! さぁ、食べてって』
「重ッ!」
宮野が叫び、トリ先生はうなだれる。
「ワシって、やっぱり重いのかなぁ。そういう性格なのかなぁ」
トリ先生、頼むからもう喋らないでくれ。こっちが痛い。
ドン引きのギャラリーを引き戻そうと、司会陣は慌てた。
『ト、トリちゃんのお国はどこですか? ガラパゴスかその辺りですか? ブルマーは民族衣装ですか?』
宮野がズバズバ言う。トリ先生はポカーンとするだけ。僕は宮野の背をつついた。
「失礼だろ、宮野。トリ先生に謝れよ」
「……お前こそ目ェ覚ませよ、原田」
「ど、どういう意味……?」
その時だ。海パン一丁でほぼ晒し者状態の僕の背後──えらくズレたタイミングでヒラリ。垂れ幕が落ちた。
えらく達筆で『刺激ある料理対決』と書かれている。曽良三々書だ。こうまで上手いと逆に、痛ましい。
それと共に垂れ幕の影から黒作務衣がドーンと現れた。
ギャラリーは完全に静まり返る。プールサイドに確かにこの人、異質だ。僕は持ってた鍋で乳首を隠しながらコソコソ彼の元に歩み寄った。
「モロモロ言いたいことはあるんですけど、まず一つ。僕ら書道部なんだから書道で対決しましょうよ! 何でイキナリ刺激ある料理対決なんですか。お腹空いてたんですか? 他にもあるでしょうが! 計算を素早く解くとか」
「けいさん……」
あ、ダメだ。曽良三々、ポーっとしてきた。この人、数字ダメなんだっけ。
「対決の企画段階までは面白かったんだけど、準備が終わったら急に飽きてきちゃった。こんな大掛かりになるなんて、ちょっと不本意かも」
曽良三々、一人でブツブツ言ってる。何ソレ? 今のは聞き流せない。巻き込まれてこんな格好してる僕の方がずっと不本意だ!
「キサマ、マッパにしてプールに放り込んでやる!」
「は?」
地味に現れたきわどい赤の海パン男──すっかりやる気の鴨はじめ、高圧的に僕を指差した。
『ネオ・字ャっ部も華々しく一人でお目見えッ!』
新展開に、ギャラリーの熱気も復活する。
鴨はじめは、さり気なく海パンの食い込みを直しながら僕を睨んだ。
「いいな。料理対決に勝った方がトリちゃんにキスしてもらうんだ!」
「キス?」
て言うか、もう発想が貧困すぎて参るわ。このヤンキー。
「当人の許可なくそんなこと了承できないです」
「そうじゃ。ワシのクチバシを何だと思っておるのじゃ!」
クチバシなんだ……。
色んな意味でショック受けてる僕を、今度は島田が純真な目で見つめてくる。
『原田くんは? 勝ったら何が欲しいの?』
『僕が欲しいもの? 別に……まぁ、あえて言うならトリ先生の噛んだガムとか……ちょ、島田! そういう引き方しないで。冗談だよ。冗談だって!』
マイク向けられ、僕も舞い上がってたみたい。
『ト、トリ先生に一つだけ頼みがあるとしたら、自分のことワシっていうのだけやめて下さい。エット、それだけです』
そこへ突然、曽良三々が割って入って来た。
「もう料理対決始める? でも単純においしかった方をトリちゃんにジャッジしてもらうなんて企画じゃ、自分で言うのも何だけど普通すぎ。普通すぎて恥ずかしい」
訳の分からないことを言い出した。こんなの、どう? なんて突然の提案。
「熱いラーメンの器を頭に乗せて、プールの上に渡した細い板の上を歩くってのは? 大きな声で熱ッ熱ッて言いながら」
「何です、ソレ。僕に何をさせたいんですか。既に趣旨違ってるでしょうが」
「ラーメンのせて、恥じらいながら歩いてもらう」
「恥じらってたまるか! 第一、水の上なんてゴメンです! 知ってるでしょ。僕は泳げないとかそういう問題じゃなくて、もう水が怖いっていうか……そういうレベルの話なんですから! 幼稚園のプールで怖くてモジモジしてたら、講師に抱えられていきなり水ん中放り込まれたんですよ! 水を見たらその時の恐怖が蘇って汗と震えが……」
「トラウマだな」
共感したというふうに鴨はじめが言った。何か癪だ。曽良三々はニコッといい笑顔してるだけだし。
あんた、弟に憑いた霊を払うとかそういう事ももうどうでも良くなってんだろ。単にラーメンラーメン言ってる。食べたいのか?
「とにかく無理ですから。キョ、拒否権を発動します!」
曽良三々、すごい口開けて笑った。
「貴様に拒否権なんて、ナイ! ナイナイナイ。ナイナイナイナイったら」
「ナイって八回言った!」
そんな空しいやり取りをしてる間に、いつになく機敏な動作で水口楓、細長い板を持って来た。ギャラリーの手助けを借りてプールの端から端に渡してる。
こっち側では曽良三々、カップメンの蓋をめくってヘイヘイ言いながら熱いスープをバシャバシャ僕にかけてくる。
「ヘイ、ヘイヘイ!」
「ちょっと、やめてくださいよ! 熱ッ! アヂアヂッ!」
否応なく水際に追い詰められた。板に乗るしか道はない。
クッソ! 何だよ、この話。原田タローいじめられ日記かよ。
そしてこの人たち、何でこんなに楽しそうなんだよ。ジリジリと後退し、遂に板に足を乗せた瞬間だ。ベコベコの薄い板は一気に真っ二つに割れた。
「ギャッ……!」
僕は真っ逆さまに水の中へ。
「ギャッ……アブッ! ギャギャッ!」
もがいて水面に顔を出すと、プールを囲むけたたましい笑い声に意識が遠くなる。
「たすげてっ! たすけっ……何でもするからっ、たすけてっ!」
「大丈夫だ、タロー! 今助ける」
ザバーンと誰かが飛び込む水音。力強い腕が僕の背を水面に突き出してくれた。
「しっかりしろ。ちゃんと足つけ」
「ううっ、ゲホゲホ」
恥ずかしいことに、助けてくれたのは鴨はじめ。僕の身体を引きずるようにプールサイドに押し上げてくれた。
そこへトリ先生がノコノコ近付いて来る。
「オマエ、今のちよっとだけ面白かったぞ」
クチャクチャ言わせながら、口の中からヨレッとしたカタマリを出す。
「はぁ、ありがとうござ……」
──ガムか?
「コレやろう。励めよ」
そう言って彼女は去って行った。
──何様だ?
結局、失敗に終わった『刺激ある料理対決』──最終的に島田が童謡熱唱して、ギャラリーは満足したように帰っていったが、字ャっ部の悪評は更に高まるだろう。
それから数時間後のこと。
疲れた足を引きずって地下一階へ。部室のドアを開けて僕はヘナヘナその場に座り込む。
みんな円になって床に座っているのだ。一体、何の儀式だ? 両足広げて隣りの人と足の裏同士を合わせている。みんな裸足だ。
「ちょっと異様な光景なんですけど……?」
黒・緑・赤、更にトリ先生。ピンクを除いて全員集合じゃないか。
「おお、ちょうどいい。オマエは足の親指と人差し指、どっちが長い?」
「はぁ、足の指? そんなんどっちだって……ああもぅ! ちょっと待ってくださいよ」
言いつつ靴と靴下を脱ぐ。
「どっちかって言うと人差し指ですかねぇ」
瞬間、トリ先生が大きく顔を歪めた。
「ワシだけじゃ! 親指が長いのはワシだけじゃ!」
「えっ? え?」
この中に助けを求められるような価値ある人間は居ない──そう分かっちゃいるが、僕は周囲をキョロキョロ見やった。
「人差し指が長いのがギリシャ型。親指が長いのがエジプト型って分けられるらしい。日本人は比較的エジプト型が多いらしいんだけど、字ャっ部はみんなギリシャ型。ただ一人を除いてね」
曽良三々の、すごく分かりやすい説明に納得すると共に僕は完全に脱力した。
「どっちだっていいでしょう、そんなの……」
「ワシだけ……。ワシだけ仲間外れ……」
しゃくりあげるトリ先生を、ちょっとカワイイと感じる自分が信じられない思いだ。
「いや、僕もよく見たら親指のが長いですよ」
「ホ、ホントウじゃな!」
「……本当です」
トリ先生、笑顔でこう締めくくる。
「よし、今月の課題は『ギリシャ型とエジプト型』じゃ! みんな、がんばって稽古しよう」
ハーイ……。
バラッバラの返事に、意欲らしきものは全く感じられない。
それより何? ちゃっかり鴨はじめも輪の中にいるんだけど? いつの間に仲直りしたのか? いいけど……いいけどね。ただ──。
「今日一日の僕の苦労は、何?」
トラウマが一つ、増えただけだった。
【8月・前編につづく】