3.不毛闘争~桃太郎追い出し作戦・コレは戦争や!1
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うらしまが虫取り網を持って出かけた。「コオロギ獲りに」と言っている。
「今は5月やで。獲れるわけないやん。ホンマに分からん人やわ」
言いながらアタシは恥ずかしい新聞をそっと捨てた。お姉は騒ぎに飽きたらしくお風呂に行ってしまった。アタシはまだ身体にビリビリが残っているから、今日は入浴禁止だ。
これをキッカケに身体から電気放つ能力でも身に付けられたら良かったのに。
地球侵略を企む悪い方の宇宙人と、放電能力で戦う16歳の少女──なんて、なかなか夢みたいな話やん。ハリウッド映画出れるわ……って何言ってんねん! アタシは我に返った。
地球侵略を企む悪い方の宇宙人と、放電能力で戦う16歳の少女──なんて、なかなか夢みたいな話やん。ハリウッド映画出れるわ……って何言ってんねん! アタシは我に返った。
「アカンやん。アタシが戦うべき相手は他にいる」
チョンマゲ結ってスーツ着たあのメガネ──桃太郎と名乗り、アタシの部屋に我が物顔で居着いているアイツを追い出す!
一人称「余」──殿様口調のあの男が当面のアタシの敵や。
一人称「余」──殿様口調のあの男が当面のアタシの敵や。
「まぁ……できればあの男、夢か白昼夢ならいいのになって思ってるねん。だってありえへん展開やん。悪いけど、現実味薄いで」
自らに疑問符をぶつけつつ、アタシはこっそり2階へ上がり、自分の家をそっと覗いた。
「アアッ!」
悲鳴を飲み込む。
──キョーレツなナリした人、まだいるぅ!
スーツとピンクネクタイ、ワラジにメガネ、チョンマゲ。何と言っても個性的な『日本一』ハチマキ。台所込みで8畳という狭い板間に転がり、奴はおやつ食べながらうたた寝している。
「ゲッ、ガッ!」
噎せて起き上がった。
「桃太郎、桃太郎っ」
アホらしいけど仕方ない。アタシはその名を叫んだ。しかし奴はこっちを見ず、そっぽを向いたままだ。アタシの声が聞こえてない筈がない。
「ちょっと、桃太郎ッ!」
肩に手をかけるとハッとしたようにこちらを振り向いた。
「あぁ、余のことか」
「アンタしかおらへんやん。桃太郎なんてヘンな名前の人間」
「うむ。つい先日まで桃次郎だったものでの。最近桃太郎に出世したばかりで、まだ違和感があるのじゃ」
「ハァ?」
アンタ、湧いてんのちゃう?
「おぉぉ!」
桃太郎──え? 元・桃次郎? は「ハッハッハッ」と変にさわやかな笑い声をあげた。
「さすがに余とて最初から桃太郎ではなかったぞよ。桃九郎から始まって桃八郎、桃七郎、桃六郎、桃五郎……そして桃太郎となったのじゃ」
アタシをケムに巻こうとしているのか、或いはホンマに天然なのか、アホなのか、宇宙人なのか……。いや、そんな問題じゃない。
「何で人の部屋で普通に生活してんの。アタシはアンタのせいで、2千アンペアの高圧電流浴びてんで。奇跡の生還果たしたとこや!」
桃太郎はにこやかに拍手した。心底感心した風の態度が鼻につくし、逆に恥ずかしくもなる。ビリビリが残っている両腕を擦りながら、仕方なくアタシはその場に腰を下ろした。
【つづく】
「コレを使え」
桃太郎、欠伸しながら座布団をくれる。
「あ、どうも……って、アンタは世帯主ちゃうやろ! なに主人面してんねん!」
「まぁまぁまぁ。細かいことを申すな」
細かくない、と言いかけたところで桃太郎は意味深に声を低めた。
「余には壮大な目的があるのじゃ。そちなど考えも及ばぬ、な」
ムカツクことにウインクなどしてくる。
【つづく】
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