不毛なまでに、乙女~8人殺ったマフィアはりりしくてピンクの割烹着1

HJMG!不毛さん22
.不毛なまでに、乙女
 ~8人殺ったマフィアはりりしくてピンクの割烹着1
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「暑い。余を煽げ」

 実に優雅な感じで桃太郎が要求した。アタシは聞こえなかったふりをして、下敷きをパタパタして自分に風を送る。

 連休があけてしばらく経った。そろそろ扇風機が欲しい時期だ。

「これ、聞こえぬか。リカ殿、余は暑いのじゃ」

 何度か繰り返されて、アタシは下敷きを桃太郎に投げ付けた。

「アタシはアンタの守役ちゃうで! 自分で煽げや。そもそも桃太郎、アンタが暑苦しすぎんねん! このアパート、暑苦しい奴多すぎるわ!」

 アタシは相当苛立っていた。

 桃太郎のせいではない──いや、不快度を深めてくれるという意味においては立派に貢献してくれているわけだが。

「あっふーん……あふんっ。あぁっふぅーん!」

 不快指数マックスに沸騰してるのが、廊下に響くこのアホ声。鬱陶しすぎる。

 言うまでもない。声の主はアホ代表・うちの義兄──うらしまだ。

「あふんっ、あふんっ!」

 廊下に出て階段下を覗くと、義兄はあられもない格好でお仕置きを受けていた。お姉の部屋を勝手に漁ったからだ。

 パンツ一丁で全身洗濯ばさみ。
 クネクネ身をくねらすたびに洗濯ばさみが弾けて、うらしまは「あふんっ!」とのけぞっている。

「……放置プレイってやつか」

 アタシの視線に気付いてうらしまはいい感じに頬を染めた。

 ホンマに暑苦しい。

 隣りのワンちゃんも怯えた様子でドアから顔を出してキョロキョロしている。

 ──仕方ない。

 アタシは階段を下りた。お姉に許しを請うてやろう。
 うらしま自身はあれで幸せでも、アタシらが迷惑してんねん。

「あの部屋、汚くてむさくるしくて嫌やな。余計に暑くなるわ。不快度倍増やで」

 ブツブツ言いながら姉の部屋のドアを開ける。そしてアタシの脳は停止した。

「ス、スイマセン。間違えました」

 慌てて飛び出した。きれいに片付けられ、ピッカピカに磨かれた部屋。それは絶対に姉の家ではない。

「アレ?」あらためて表札を見てみる。

 そこには「1ー1 大家」と筆書きされた表札が。

「アハハ。アタシも疲れてんねんな。白昼夢みるなんて。ホリャ! 今度こそ」

 目を擦ってもう一度扉を開ける。
 しかし光景は変わらない。部屋は整理整頓され、塵一つ落ちてはいなかった。


「いらっしゃい。どうぞ」

 玄関で立ち竦むアタシの足元にスリッパが差し出される。
 レースで縁取られたピンクの可愛いスリッパ。
 クマちゃんの刺繍がある。

「カ、カワイイ」

 思わず呟くと、スリッパを持っていた手が一瞬ピクリと震えた。

「あ、ありがとうございます……」

 低い声──聞き覚えのないそれに、ようやくアタシは事態の異常さに気付いたのだった。

            【つづく

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