そして翌日。
オールド・ストーリーJ館玄関脇に建て増しした風呂の窓下──えらくみみちい待ち合わせ場所に行くと、カメさんはすでにそこにいた。
さすがに今日はピンクの割烹着は着ていない。
ナリは普通のシャツとパンツだ。
マフィア的なアレを除くとサワヤカで、りりしい。
しかしよく見ればボタンにはお花やハムスターの模様が彫られている。
「カ、カワイイですね」
そう言うと、本気で照れた。
ちょっと痛い人やで、この男。40歳らしい。
「カメさん、アンタ、ヒマなん? ハウスキーパーなんやったら、他の家も担当してんのちゃうん?」
「今日は有給をとりました」
「そうなんや……」
気合満々や。
「リカさん、今日1日よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」
りりしい感じで言われ、とっさに好意的に返事をしてしまった。
今日1日、アタシはカメさんと共に桃太郎とワンちゃんのデートの模様を見張ることになったのだ。
「見張るのではありません。俺たちで見守るのです。桃太郎さんとワンさんを見守りたい。見守り隊!」
……ソレ、どっかで聞いたフレーズや。
ともかく渦中の2人が玄関から出てきたので、アタシらの話は一旦打ち切りとなった。
おかしな格好した小男と、挙動不審な女の子。
2人は自然な感じで並んで歩き出した。
「い、いい感じじゃないですか!」
カメさんが息を呑む。腰を屈め、2人の後を付いていった。
本人、身を隠しているつもりなのだろうが、この体格。余計に目立ってしょうがない。
時々アタシの方を振り返ってすごい勢いで手招きする。
仕方ない。アタシは彼の元へコソコソ走った。
このままだと逆に目立つことになりかねない。
騒ぎでも起こって、アホのうらしまでも出てきたら収集がつかなくなるのは間違いない。
「それで、首尾はいかがですか?」
カメさん、すっかりノリ気だ。
「首尾って……。アタシら悪代官と回船問屋ちゃうで。まぁ一応、桃太郎にはちゃんと教育してから送り出したつもりやけど?」
デートの心得たら何たらかんたら。
昨日カメさんに吹き込まれたことをそのまま言っただけやけど。
今朝方急いで。棒読みで。
第一、アタシ自身がデートなんてしたことないからな。
何言っても説得力ないわ。
「ゴ、ゴメンな……」
ボソッと呟いた言葉を、カメさんは聞き流したようだ。
実はデートとはちょっと違う。
前を歩く桃太郎は気合いを入れて「もーもったろさん、もっもたろさん」と歌いだした。
※ ※ ※ ※ ※
昨日の夜──お茶啜って何だかノンビリした挙句、アタシは酔ってもないのに力説した。
この街には宇宙人、かなりの数いる筈や! それも悪い方のが!
桃太郎も酔ってもないのに憤った。
ならば余が懲らしめてやらねばなるまい、と。
そうや、懲らしめまくれ!
アタシ達はその時初めて意気投合したのだった。
【つづく】
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ナリは普通のシャツとパンツだ。
マフィア的なアレを除くとサワヤカで、りりしい。
しかしよく見ればボタンにはお花やハムスターの模様が彫られている。
そう言うと、本気で照れた。
ちょっと痛い人やで、この男。40歳らしい。
「カメさん、アンタ、ヒマなん? ハウスキーパーなんやったら、他の家も担当してんのちゃうん?」
2人は自然な感じで並んで歩き出した。
本人、身を隠しているつもりなのだろうが、この体格。余計に目立ってしょうがない。
時々アタシの方を振り返ってすごい勢いで手招きする。
仕方ない。アタシは彼の元へコソコソ走った。
このままだと逆に目立つことになりかねない。
騒ぎでも起こって、アホのうらしまでも出てきたら収集がつかなくなるのは間違いない。
昨日カメさんに吹き込まれたことをそのまま言っただけやけど。
今朝方急いで。棒読みで。
第一、アタシ自身がデートなんてしたことないからな。
何言っても説得力ないわ。
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