あー、何か高校行かんでもすむ話ないかなー。
今から格闘家になってオリンピック目指すとか、芸能界デビュー果たすとか、海外放浪の旅に身を投じて無医村でボランティアして尊敬されるとか。
2,000アンペアの電気を自在に操り、悪い方の宇宙人を懲らしめるとか、恐ろしいほどの金持ちの御曹司と出会って、最初は反発しあいながらも次第に惹かれあうとか。
いっそ地球が悪い方の宇宙人たち相手に総攻撃態勢を整えて、民間人のアタシが突然その参謀に迎えられたりとか……そういうシンデレラストーリー待ってへんかなー。
夕方、アパート前でブツブツ言ってたら、うらしまが会社から帰ってきた。
「おつかれ、うらしま。アレ? お姉は?」
サディストの姉も、いつもはアパートの玄関まで一応迎えに出てくるのに。
敷居を一歩入ったと同時にうらしまは犬になり、お姉の足元を四つん這いで進むという気持ち悪い光景が見られるのに。
「乙姫サマは3日前に発売したゲームにハマってるから、時間の感覚がないんじゃないかなぁ」
「ゲーム?」
「モンスターをハンティングしていくやつ。1日21時間はやるって言ってたから」
「ほぼ丸1日やん! 人間としてどうなん、ソレ?」
うらしまと共に部屋に行くと、ゴミ屋敷の中に姉が転がっていた。コントローラー片手に白目むいて、瞼がピクピク痙攣している。
「お、お姉……」
この人のこんな姿、見たくなかった……。
うらしまに命令して、この部屋の洗濯物を回収させて外へと向かう。
アパート玄関にはワンちゃんが待っていた。
「ちょちょちょうど良かったです。一緒に洗濯に行きましょう」
アタシらは商店街に向かって歩き出した。
何故か付いて来るうらしまの尻を蹴って追い払う。
「あっふぅん」と悲鳴をあげて、奴はアパートへ戻っていった。
「せせせ洗濯機欲しいですね」
ワンちゃんの言葉にアタシは大きく頷いた。
いちいちコインランドリーに行くのは面倒臭いし、お金も勿体ない。
そう、うちのアパートには洗濯機がないのだ。
「お姉に言っても埒明かんし、アパートのみんなでお金出し合って1台買わへん? 安いやつでいいし」
「ああああたし、乾燥機付のがいいですぅ」
「そりゃその方がいいけど…でも高いんちゃう?」
「そそそそれはちょっと厳しいですぅ」
それに、とワンちゃんが付け足した。
コインランドリーってちょっと怖いですよね、と。
「な、何で?」
「ととと都市伝説でよくあるじゃないですか。コインランドリーに行くと、やたらガガガガタンガタン音させて回ってるドラムがあって、不審に思って開けたら中にししし死体があっ!」
アアアアァーッ!
突然ワンちゃんが叫び、アタシは「ギェーッ!」と悲鳴をあげた。
【つづく】
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アパート玄関にはワンちゃんが待っていた。
何故か付いて来るうらしまの尻を蹴って追い払う。
「あっふぅん」と悲鳴をあげて、奴はアパートへ戻っていった。
いちいちコインランドリーに行くのは面倒臭いし、お金も勿体ない。
そう、うちのアパートには洗濯機がないのだ。
「そりゃその方がいいけど…でも高いんちゃう?」
「そそそそれはちょっと厳しいですぅ」
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