不毛大作戦!~恋だか変だか、何かそんな感じ5

10.不毛大作戦!~恋だか変だか、何かそんな感じ5
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 カメさんはいかつい身体をユラリと揺らしながら、お持ち帰り専用のコーナーへ向かう。
 並んでいたお客さんが蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

「イチゴショートを、ふたちゅモゴくだちゃいモゴ」

「ヒッ! あ、ありません。申し訳ございません。ありませ……すみません。こんな私でごめんなさい」

 店員、相当パニくってる。
 自覚のないカメさんは、まだ口の中のイチゴを飲み込むのが惜しいようにモゴモゴを繰り返していた。

「ないなら仕方にゃいモゴ。それならモゴモゴちょこっとかねめのもんくれ」

「?」

 アタシの思考は一瞬停止した。ちょこっと金目の物くれ?
 ん?
 ──ああ「ショコラッテ・クリーム・モンクレ」か。
 新発売のショコラのケーキ。ピンクと赤が可愛らしい。
 うん、カメさん好きそうや。

 それは些細な行き違いやった……。

「ちょこっと金目の物くれ」

 マフィアにそう言われた店員、ヒーッと金切り声をあげる。

「ち、違うんです。違うんです!」

 アタシは慌てて立ち上がる。

「モゴ……チョコットカネメノモンクレ」

 カメさん、果敢にもその台詞を繰り返す。
 ちょっとは自分の外観、自覚してや!

 店員の悲鳴に、奥からベテランらしきオバチャン店員が飛び出してきた。

「この強盗マフィアがぁッ!」

 叫ぶがショーケースからホールケーキを取り出した。
 目にも留まらぬ早業で手首のスナップを利かせる。

「ご、誤解だ。俺は……」

 ようやく事態を飲み込んだカメさん、絶妙なタイミングでサングラスを外した。
 その顔面にケーキが激突する。

 ボゴッ!

 空気の潰れるような強烈な音にカメさんの悲鳴が重なる。
 更にフワッフワの生クリームケーキが立て続けに顔面に吸い込まれた。
 周囲のざわめきが一瞬、凍りつく。

「カ、カメさ……」

 コント以外でこんな光景初めて見た。
 ものすごく悪いと思いながらも、アタシは喉の奥がヒーヒー笑いそうになるのを必死で堪えていたのだった。

 どうやってフォローしていいかも分からず、とりあえずアタシは他人のふりした。
 騒ぎに気付いて店の奥から店長らしき女の人が飛び出してくる。

「大丈夫ですか、お客様!」

 大丈夫なわけないやん。目の前の光景見てぇな。
 しかしカメさん、顔からボトボトとクリームを落としながらも「だ、大丈夫です」と答えた。
 ほとんど反射的な回答や。
 多分、車に撥ねられてもこの人は「大丈夫です」って言うんやろな。

 さすがに放っておくわけにもいかず、アタシはハンカチを手にカメさんの側へ駆け寄った。
 もう桃太郎とワンちゃんの姿も見失ってしまった。
 さすがにこの人も尾行は諦めるやろ。

「ホンマに大丈夫? カメさん」

 カメさん、さり気なくクリームをペロリと舐めてる。

「だ、大丈夫です」

 ──いえ、むしろ幸せです。美味しいです。
 小さい声で付け足した。

「さぁ、リカさん。2人を追いましょう」

 お化けマフィアみたいなすごい姿で店を飛び出す。
「キャーッ!」と悲鳴が、断続的に商店街に響き渡った。

 カメさんよ、アンタのその執念はどこから来るの?

「11.不毛サスペンス~コインランドリーでオカシナ体験」につづく


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