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「何や、その設定は。それだけで1本、マトモな(?)小説でっちあげられるで。むしろそっちやで? なぁ! むしろそっちやろ!?」
「は、はぁ…」
困った人やと思いながら、アタシは根田さんのフトンをかけなおした。何があったか知らんけど、3年の眠りって一体どういうもんやろな、なんて考えながら。
その時だ。
一瞬、目を開けた根田さん。アタシとガチッと視線が合った。
一瞬、目を開けた根田さん。アタシとガチッと視線が合った。
「…………! ね、根田さん、今すこし微笑んだ……」
腰を抜かしてその場にヘナヘナとへたり込んだアタシを、桃太郎が支えてくれる──いや、支えようとして一緒に転んだ。
「あ痛ァ! リ、リカ殿? 何を申しておる? 根田殿はずっと眠っておいでじゃ」
「え?」
アタシたちの後ろでカメさんが呻き声をあげる。
「きゅ、急に眠気が……」
突然にその場に倒れこむ。
「亀殿、しっかり……ムニャ」
間髪入れず桃太郎もコテンと寝てしまう。
正体不明の攻撃を喰らったわけじゃない。みんな気持ちよくなっただけや。なにせ根田さん、スヤスヤと気持ち良さそうに眠ってる。見ているうちにアタシもボーッと暖かくなって瞼が落ちてきた。
「グゥ」
安らかな気持ち。ああ、こんな深い眠りは初めてだ。
気づいた時、そこに根田さんの姿はなかった。アタシら3人は無人の1─2号室で、寄り添って眠りこけていたのだ。3人ともヨダレまみれだ。
外はもう暗い。アタシらは呆然と顔を見合わせた。なぜだかとても満ち足りた気分。かぐやちゃんへの復讐心も、歯医者への恐怖もスッと消えていた。
アタシは悟りを開いたのだ。
「全て空しい。しかし全て素晴らしい。人の世は儚く一瞬だ。でもアタシにとっては、それが永遠なんや」
「な、何を言っておるのじゃ?」
「見える。光が…」
「そ、そちは何を言っておるのか?」
「見える。光が…」
「そ、そちは何を言っておるのか?」
桃太郎、ドン引きでこっち見てる。