35.不毛遠征計画~それは波乱の予感1

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「パリッとしたスーツを着て、ホールケーキを1人で食べている夢を見ました。幸せでした」

「アタシは歯医者行く勇気もらった」

「よ、余はエット……」

 困ってる。桃太郎は特別得るものはなかったみたいや。

 1─2の根田さんのことはアタシら三人の秘密にしよう──アタシと桃太郎とカメさんは固く約束した。幽霊か宇宙人かは分からん。でも、あの人は……優しい心をもったあの人は絶対他人に踏みにじられてはアカン存在や。1─2はアタシらの聖域なんや、そう思う。もう二度と根田さんに会うことができなかったとしても、アタシらは彼のことを──。

「こんにちは、多部さん」

 グッと感動にひたっていたところに突然苗字で呼ばれ、アタシは相手を睨んだ。何や、せっかくいい所やったのに。気分台無しや。

「こんにちはァ!」

 仏頂面でそう返して、そしてアタシはアレッと思った。見慣れぬ人が、当たり前みたいな顔してアパートの玄関に入ってきた。ゲーム機片手にお姉が出てくる。

「あら、おかえりなさい。根田」

「はっ?」さすがに呆然とした。「え? 根田さんって幻の? え、幽霊か何かかと……」

「幻? 何言ってるのよ」

 お姉、憐れむ目線をアタシに向ける。

「根田は早朝勤務明けでお疲れなのよ。これからお休みになるんだから、訳の分からないことを言って邪魔しちゃだめよ」

 ごめんなさいね。この子、本気でバカなの。高校全部落ちたのよ、ウフフ。なんて言ってる。


「根田さん……1─2の?」

「そうよ」

「……い、生きてる人なん?」

「? そうよ」

「で、でもヒッキーやつて。3年間、ずっと部屋にこもってるって話……」

「仕事のない時は大抵こもっていますが。早朝勤務なので皆さんとは生活サイクルが違い、あまりお会いしませんね」

 でも皆さんを存じ上げてはいますよ、と根田さんは言った。

「うわ、喋った」

 結構クールな感じや。三年寝太郎のイメージとはまた違う。昨日の人とホンマに同一人物なのか? って昨日の人はフトンにくるまったままだったから、顔は見てなかったなぁ。

「では大家さん、失礼します」

 軽く頭を下げて、根田さんは1─2へ帰っていった。

「クールな方だわ」

 お姉、ニンマリ笑ってそれを見送る。おいおい、お姉よ。大好きなかぐやちゃんはどうしたん? いや、それよりうらしまは?


 何にしろ、これで謎の多い? オールドストーリーJ館の全員がようやく揃ったわけだ。

つづく


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