【HJMG!不毛さん62】
21.さんすうのべんきょうからはじめよう!~アタシの脳ミソ→不毛?1【はじめましての方はこちらへどうぞ】
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「アカン」
昼寝から目覚めてアタシは頭を抱えた。
「メチャ、リアルな夢見てしもた」
来年の3月。
夢の中でアタシは浮かぬ顔してオールド・ストーリーJ館に帰ってきた。
玄関にお姉とうらしま、桃太郎にワンちゃん、それからカメさんがズラリと並んで待ち構えている。
受験、どうだった? と言われ、アタシは力なく首を振った。
「アカン。問題、全然分からんかった」
こりゃもう1年、浪人やな。
そう言って夢の中のアタシは笑ってた。乾いた笑いだった。
時計を見れば午後3時。
桃太郎は世直しの旅に出たのだろう。
「起こしてくれたらいいのに。まぁいいか。どうせ世直しの旅に出てもアタシ、することないもん」
そこであらためて気付いた。
「アタシ、アカンって!」
学校にも行ってないし、働いてもいないから、アカン。
朝寝坊の上に昼寝のクセまでついてきた。
この状況を何とかせんといかんという焦りが、段々なくなってきた。
「だから、それがアカンねんて! 自分がまさかの高校浪人やってコトを弁えんといかん」
来年あらためて受験するとしても、今から準備しとかんと。
今が5月。
9ヶ月か10ヶ月後には試験。
それは長いようで短い期間や。
何とか……何とかせんといかん。
ブツブツ言いながらアタシは立ち上がった。
階段を下りて、お姉の部屋をノックする。
今日もヒラヒラピンク割烹着姿のカメさんが、りりしく出迎えてくれた。
「ああ、今日カメさん来る日やったんや。さすがに部屋きれいな」
「いえ、とんでもありません」
控え目に返しながらもカメさん、浮かぬ顔だ。
お姉とかぐやちゃんのデートを見守り損ねたことに、ひどくショックを受けてるみたい。
数日ぶりに来てみたら風呂場の屋根が隕石で大破している──そっちの方にはノーリアクションなんやな、この人。
「お姉は?」
部屋を覗き込むときれいな板間の真ん中でお姉、通帳と書類見ながらニヤニヤしている。
書類の入ってた封筒にはドルとユーロのマークと共に数字がいっぱいメモされていた。
「ユーロが堅いわぁ。色々言うても、やっぱりユーロが手堅いわぁ」
久々に聞くお姉の関西弁。
イッシッシ……押し殺した笑い声が続く。いやらしい。
「お、お姉、外貨になんて手ぇ出してみ? 痛い目みんで」
話しかけると驚いたようにこっちを向く。
「うるさい! 円なんて日本が潰れたらお終いよ。アメリカとヨーロッパのお金に変えてたらその分は助かるでしょうが。万一の時の危険を分散しているのよ。わたしは自分の財産を賢く守っているの」
そんなんアメリカやEUが潰れても一緒やん。
しばらくして通帳から顔をあげ、お姉は怪訝そうにアタシを見た。
「リカ? 泣きそうな顔をしてどうしたの?」
「うっ……」
さすがお姉。どんな状況下でも妹のこと、お見通しや。
アタシは今見た夢の内容を涙ながらに語った。
「アカン、この状況ホンマにアカンねん。アタシ、アカンねん」
アカンアカン連発。
アタシ、アカン人間になってるやろ。
「そうね」
お姉は軽い感じで言って、オホホと笑った。
……お願い。否定するか、慰めるかして。
【つづく】
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