21.さんすうのべんきょうからはじめよう!~アタシの脳ミソ→不毛?2

HJMG!不毛さん63
21.さんすうのべんきょうからはじめよう!~アタシの脳ミソ→不毛?2
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 ツッこむのは心の中だけにしといて、とにかくアタシは問題集を広げた。
 全ての高校に落ちた日の夜、お父が買ってきてくれたものだ。
 無言で差し出された紀伊国屋(本屋)の紙袋……きっと一生忘れられへん。

 1回もページ開けてないコレを使って、今からみっちり勉強する!
 アタシは決意した。

「まずは鬼門の算数からや! うわ、さっぱり分からへん!」

「……算数って言ってるあたりで厳しいですね」

 カメさんが呻いた。

「最初からさっぱり分からへん。お願い。お姉、イチから教えて!」

「さぁ、わたしにも分からないわ」

「え、でもお姉はストレートでトーキョーの国立大入ったやん」

「わたしの時代は何もかもマークシート形式だったのよ。入試はおろか、定期テストもね」

 てことは……勘?
 頭良かったわけじゃなくて?

「トーキョーの大学だって本気で受かるなんて思っちゃいなかったわよ。でも行きたかったの。尊敬するヘビメタバンドの解散ライブが受験の日の夜、トーキョーであったから」

「お、お姉……頭良くて美人のお姉って……アタシはこれでも自慢に思っててんで?」

 尊敬するヘビメタバンドって何や。
 好きなヘビメタバンドでいいやん。
 尊敬って……。

 ガックリ肩落としたアタシの背を、カメさんが優しく叩く。

「リカさん、一緒にがんばりましょう」

「カメさん……。頼りになるのはカメさんだけや!」

 そう叫んで泣くと、カメさんは微妙な笑顔を浮かべた。
 それは控え目で優秀で乙女なカメさんの、今まで見た事ない迷惑そうな表情だった。

「……自信はありませんが」

 ともかく3人で問題集と格闘を始めた時。
 ドンドン──扉を叩く音。

「リカ殿~! リカ殿~っ!」

 この声、桃太郎だ。
 半ベソかいた情けない感じでドアを叩く。

「何かあったんじゃないでしょぅか」

 アタシは無視しようとしたのに、わざわざカメさんが玄関を開けに行った。

「ヒッ!」

 カメさんの悲鳴。

 すごくイヤやったけど、アタシも出ていく。
 そして絶句した。

 桃太郎、あられもない姿で廊下にポツンと立っていたのだ。
 「勝訴」の旗しょった背広のメガネボーイ。
 上着はちゃんとしている。
 しかし下は穿いてなかった。
 パンツ一丁だ。

「知らぬ間に……知らぬ間に、ズボンが脱げてた」

「……そんなアホな。な、何でズボン? 一番大事なものやん! どこで落としたん?」

「それが分からぬから……」

「じゃあ、どこで気付いたん?」

「げ、玄関で……」

「どこの玄関? 家の? アパートの?」

「アパート……と思う」

「思うって何やねん! 情けない! 情けないわッ!」

 桃太郎の背をバシバシ叩き、アタシは目の前が霞むのを自覚した。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 桃太郎もハラハラ涙を零している。

「リ、リカさん、落ち着いてください」

 カメさんに宥められ、アタシはようやく落ち着きを取り戻した。
 アカン。アタシ、すっかり桃太郎のお母さんと化している。

「余は、コスチュームはあれ1個しか持っておらぬ」

 コスチュームって言うな。

「早う見つけよ。見つけたら褒美にきびだんごをやるぞよ」

 この期に及んで、尚も上から目線なん?

 桃太郎の背を軽く叩いて廊下に出ようとしたアタシを、カメさんが押し止める。

「いえ、俺がズボンを探しに行ってきます。リカさんは勉強を続けてください」

 そこでなぜか桃太郎が頬を染めた。

「そちは優しい奴じゃのぅ」

 カメさんもえらくテレた。気持ち悪いわ!


「22.不毛恋バナ甘酸っぱく始まったものの、苦々しく終了する」につづく



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