23.みんなでおでかけ~サイクリング・不毛・ヤッホー!3

【HJMG!不毛さん68】
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「まぁ、ちょっと待ってて。いよいよアレを出す番やな!」

「アレとは?」

 アタシは建物の脇に隠していたアレを取りに行った。

 チリンチリーン。
 心地良いベルの音を鳴らす。
 それは真っ赤な自転車だ。

「いい拾い物したわ」

 すごく得意な気分になった。

「て、鉄の怪物ッ!」

 桃太郎がヒッと悲鳴をあげる。
 その様を見て、オキナが軽くウケてた。

「この自転車な、いつ見ても川原に転がってたから拾ってきてん。捨てられたんか何か知らんけど、持ち主ももう取りに来んやろ。洗って磨いたらこんなにきれいになったし、ホンマにいい拾い物やで。ヒッヒッ」

 アカンて、アタシ。
 貧乏に侵食されていってる。
 とは言え大阪にいた頃、アタシは自転車でどこまでも行ったもんやで。
 電車賃ケチって、余所の府県にまで自転車飛ばしたもんや。

「たった1台の自転車(チャリ)をどうするのさ。交代で乗るの? それとも全員で曲乗りする~? どっちにしろ、大した娯楽じゃないよね~」

 オキナが理に適った苦情を述べる。
 いちいち癇に障る言い方をする奴だ。

「み、みんなで色んな乗り方して遊んだらいいやん。交代で速さを競ったり、細い棒の上を走ったりして……」

 段々自信がなくなってきた。
 確かに今時、自転車なんて娯楽とは言えんかも。
 ガックリ肩を落として、アタシはみんなの所に自転車を引いてきた。

「おおぅぁ!」
 真っ赤な自転車を見るなり、かぐやちゃんが一声吠えた。
「おおぉぉぅ!」

 同時にお腹をグゥ! と鳴らし、彼はアタシに向かってものすごい速度で突進してきた。

「わ! ちょ、何や。怖いって。かぐやちゃん、走るの速すぎ! ギャッ、それアタシの……!」

 自転車の後輪タイヤを片手でわしづかむ。
 そのままグググッと持ち上げた。
 かぐやちゃん、自転車を頭上高くに掲げ、空中でクルクル回しだす。
 すごい笑顔だ。

「な、何してんの。あの人……?」

 アタシはさすがに怯えた。

 するとかぐやちゃん、笑顔のまま「おぉう!」と自転車を放り投げ、自分も宙にジャンプする。
 曲芸のような身のこなしでサドルに足をかけ、そのまま地面に着地。
 笑顔のまま漕ぎ出した。
 僅か数秒後にははるか向こうを走っていた車に追いつき、追い越していく。

「か、かぐやちゃ~ん、待ってよ!」

 オキナがヨロヨロ追いかけだした。

「あ、あの人何なん? アタシの自転車(チャリ)やで。とられた……」

「リカちゃん、元気を出せ」

 うらしまにポンと肩を叩かれ慰められて、アタシは更に落ち込む。

 仕方なく、アタシらも彼の後を追った。
 徒歩で。

 ようやく追いついた時、かぐやちゃんは川原で曲乗りしてた。
 ものすごい笑顔で。


「24.みんなでおでかけ~不毛・川原でヤッホー!」につづく

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