【HJMJ!不毛さん70】
24.みんなでおでかけ~不毛・川原でヤッホー!2【はじめましての方はこちらへどうぞ】
【前回のお話はコチラ】
小さなタイヤさえあれば、ビート板を何枚も繋げて大勢の人が乗ることは物理的に可能だろう。
曲がる時は大変やけど。
例えて言うと、レールのない小さな電車といった形や。
堤防のはるか向こうでアタシらの姿を目撃した人が「キャー」と悲鳴をあげている。
ゴルフの練習していたオッサンがクラブを振り回して仰天している。
「余たちは一つじゃ。一つになったのじゃ」
楽しそうに桃太郎が笑った時。
アタシは肩を走る激痛に気付いた。
「ワ、ワンちゃん、腕引っ張りすぎやって。肩抜けるッ! アタシ、抜けたことあるって言ってるやろ」
しかしワンちゃん、アタシの声に気付いてない。
桃太郎と共に笑っている。
「痛ッ……!」
アタシが身じろぎした為か、一気にバランスが崩れた。
「アッ!」
更に、猛スピードで何かがこっちに飛んでくる。
オッサンが振り回していたゴルフクラブだ。
手を滑らせたのだろう。
最悪なことに、それが桃太郎の顔面を直撃した。
「ギャゥゥ!」
次の瞬間、アタシたちは宙を舞っていた。
六人が、色んな体勢取りながらも空中を泳ぐその姿。
川原に投げ出されるまでの間アタシ、ワンちゃんとずっと目が合ってた。
地面にドサッと激突したアタシの上に、更に赤い悪魔が降ってくる。
空中でバラバラになった自転車の車体がアタシの肩を直撃したのだ。
「グゲッ!」
今ので完全に外れた。
アタシの肩、完全に持ってかれた。
「アタシが拾ってきた自転車(チャリ)に、何でアタシが撥ねられんといかんねん……」
「泣くな、リカ殿」
元凶である筈の桃太郎が、ピンピンした様子でアタシを覗き込む。
「…………泣いてへんわ」
気付けばアタシのすぐ隣りにかぐやちゃんも倒れていた。
あれ、この人自転車には乗ってなかったよな?
見れば腹(胃のあたり)がプックリ膨れている。
「うぅむぅ!」なんて呻いてる。
「あっ、俺の鞄が!」
突然カメさんが叫んだ。
勝手に開けられ、周囲にラップやリボンが散乱している。
その隙間で一寸法師が必死の形相で米粒食べてる。
どうやらかぐやちゃん、お昼ご飯のおにぎり百個を独り占めして食べちゃったらしい。
「ゲプッゥ!」
ものすごいゲップをした。
「みんなで食べようと思って作ったのに……」
カメさんが涙ぐみ、桃太郎がショックで泣き出す。
つられてワンちゃんも号泣し始めた。
どうでもいいけど皆、肩外したアタシには無関心なんやな……。
「何や……何やねん、この仕打ち……」
カメさんに肩を嵌めてもらって、アタシらはヨボヨボとアパートに帰った。
かぐやちゃんも壊れた自転車を抱えて、泣きながら付いてくる。
アタシは自分の部屋に入った。
そして呆然と立ち尽くす。
「どうかしたか、リカ殿」
背後から聞こえる桃太郎の声が遠のく。
アタシの部屋はグチャグチャ。
荷物がひっくり返っている。
ドロボウが入ったのだ。
「た、大変や! お金お金」
大事な鞄を開ける。
幸いなことに、なけなしの現金には手を付けられていない。
桃太郎と一緒に調べたけど、盗られた物はなさそうだった──ただ一つのものを除いて。
「何も盗まれてないのなら、不幸中の幸いと申すものじゃな」
桃太郎がアタシの外れたての肩をポンと叩く。
「違う。桃太郎……。盗まれた物がある」
それはアタシのパンツや。
ケースに入れてたそれらがゴッソリ持っていかれてる。
「どうしよう。パンツ、今はいてる1枚しかない……」
「25.パンツを盗まれた!~桃太郎が指揮る不毛捜査」につづく
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