29.ボクの××は聖水だよ~それは不毛な名言4

【HJMG!不毛さん89】
29.ボクの××は聖水だよ~それは不毛な名言4
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 お姉とかぐやちゃんのデート(隕石やら、空腹による失神やら)騒動の後、この2人の争いはより熾烈なものへと変じていった。ぶっちゃけ、見苦しい罵りあい。どちらがよりかぐやちゃんの食の面倒を見てやれるか、そんなことを言い争っている。オカシイと思うねん。かぐやちゃんはいい大人や。周りの人が面倒みてやる必要はないやん。

「違いますー。かぐやちゃんは保存食以外の物だってちゃんと食べますーぅ」

「黙りなさい。かぐや様がお好きなのは豆と種、それに尽きるのよ!」

「ちがいますーぅ」

「黙りなさいよ」

 こっちが恥ずかしくなるから、あまりおかしなことは言わないで欲しいもんや。

「あのな、オキナ? かぐやちゃんって確かに一瞬ゾッとするくらいの美青年やけど……でも、どこがいいの?」

 悪いけど、どこがいいの?

「あの人、いつも余所向いてるもん。どこか一点をジーッと見ながら、自分の好きなことだけペラペラ喋ってるだけやん。何と交信してるのか分からんし。何の電波受信してんのか知らんけど、時々突然叫んだりするやん。理解不能の言語で」

「そ、そこがいい所で……」

 そこがいいのか! 正気か?

「それに、気付いてた? あの人、アタシらのこと──もちろんアンタも、1回も名前で呼んだことないで? 覚えてもらってないんちゃうか?」

 オキナは一瞬、真顔になった。

「な、何言ってんのさ? かぐやちゃん、いつもボクのことをオキナって呼んで……? オキナ君って? オキナちゃん? オキナさん…………?」

 見る間に赤毛の顔色が真っ青になった。

「ボク、かぐやちゃんに名前呼ばれたこと、1回もないッ!」

 向こうでお姉もガックリ膝をつくのが見えた。2人、同じショックを受けて、今なら心が通じ合えるかもしれない。

「あの人にとって、アタシらは空気みたいな存在やねん」

「くうき……?」オキナ、カタカタ震えだす。「ボクはくうき……? かぐやちゃんにとってボクは……」

 よほどショックだったのだろう。その夜、奴は本気で熱を出した。アタシの風邪が伝染ったわけでもない。心労が招いた病気や。

 恋の病にしてはそれはあまりにも不毛やと、アタシは思った。



「30.はじめての経験・雨乞い~不毛なことには変わりなし」につづく


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