29.ボクの××は聖水だよ~それは不毛な名言4
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お姉とかぐやちゃんのデート(隕石やら、空腹による失神やら)騒動の後、この2人の争いはより熾烈なものへと変じていった。ぶっちゃけ、見苦しい罵りあい。どちらがよりかぐやちゃんの食の面倒を見てやれるか、そんなことを言い争っている。オカシイと思うねん。かぐやちゃんはいい大人や。周りの人が面倒みてやる必要はないやん。
「違いますー。かぐやちゃんは保存食以外の物だってちゃんと食べますーぅ」
「黙りなさい。かぐや様がお好きなのは豆と種、それに尽きるのよ!」
「ちがいますーぅ」
「黙りなさいよ」
こっちが恥ずかしくなるから、あまりおかしなことは言わないで欲しいもんや。
「あのな、オキナ? かぐやちゃんって確かに一瞬ゾッとするくらいの美青年やけど……でも、どこがいいの?」
悪いけど、どこがいいの?
「あの人、いつも余所向いてるもん。どこか一点をジーッと見ながら、自分の好きなことだけペラペラ喋ってるだけやん。何と交信してるのか分からんし。何の電波受信してんのか知らんけど、時々突然叫んだりするやん。理解不能の言語で」
「そ、そこがいい所で……」
そこがいいのか! 正気か?
「それに、気付いてた? あの人、アタシらのこと──もちろんアンタも、1回も名前で呼んだことないで? 覚えてもらってないんちゃうか?」
オキナは一瞬、真顔になった。
「な、何言ってんのさ? かぐやちゃん、いつもボクのことをオキナって呼んで……? オキナ君って? オキナちゃん? オキナさん…………?」
見る間に赤毛の顔色が真っ青になった。
「ボク、かぐやちゃんに名前呼ばれたこと、1回もないッ!」
向こうでお姉もガックリ膝をつくのが見えた。2人、同じショックを受けて、今なら心が通じ合えるかもしれない。
「あの人にとって、アタシらは空気みたいな存在やねん」
「くうき……?」オキナ、カタカタ震えだす。「ボクはくうき……? かぐやちゃんにとってボクは……」
よほどショックだったのだろう。その夜、奴は本気で熱を出した。アタシの風邪が伝染ったわけでもない。心労が招いた病気や。
恋の病にしてはそれはあまりにも不毛やと、アタシは思った。
「30.はじめての経験・雨乞い~不毛なことには変わりなし」につづく
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