30.はじめての経験・雨乞い~不毛なことには変わりなし1
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痛い痛いと言い続けながらも足の負傷はいつのまにか治っていた。しかし痛みが治まったあとも、スニーカーを履くのはキツイ。右足が少し大きくなったみたい。きっと変な形で骨がくっ付いたんや。未だ育ち盛りのアタシにとって、それは大問題には違いない。でも今は更に上をいく鬱陶しい問題を抱えていた。それは──背後霊のような存在やった。
「リ~カ~ちゃ~ん……」
オキナがピッタリくっ付いて離れない。かぐやちゃんの仕打ち(いや、あの人は別に何もしてないけど)に脆弱なガラスハート、打ち砕かれたらしい。
「頼むよ、リカちゃん」
30歳のバツ1男が、涙ながらにアタシに懇願する。どこに行っても付いてくる。
「かぐやちゃんの心を確かめたいんだ。リ~カちゃ~ん」
「た、確かめたらいいやん」
アタシを巻き込まんといて!声を大にしてそう叫びたい。みんな、アタシを頼らんでくれ!
しかし目を潤ませて俯いたままのオキナを見ると、そんな言葉は出ない。突き放すことは出来なかった。
「元気出しぃや、オキナ。いつもの憎まれ口はどしたん?」
「リカちゃんだけが頼りなんだ」
そう言って赤毛の30歳は泣いた。こうしてアタシらは、謎の多いかぐやちゃんの1日を追いかけることになったのだ。「どれどれ」と言って桃太郎も付いてきた。
アタシと桃太郎、オキナ──嫌な面子(メンツ)やで。向かう先がかぐやハウスっていうのも、またビミョーなセレクトやわ。
かぐやちゃんについて知っていることは、実はあまりない。それはオキナも同じらしい。お姉がこのアパートを買うより先に、あの場所に住んでいたかぐやちゃん。
お姉とオキナは家具屋の息子だからかぐやちゃんと思っているらしいが、それが事実とは思えない。安直過ぎるネーミング、そして設定やもん。いつもお腹を空かせていて、腹の鳴る音は地震のような轟音だ。食べ物を前にするとヨダレがすごい。もっとも最近はお姉やオキナにご飯をもらうようになり、例の音はあまり聞かれなくなった。心なしか、顔色もいい。
口癖は「テロ」! 何か異変があるとテロを疑う。「テロかッ!」とか「テロだッ!」とか1人で叫んでる。あの人がこう言ってるのを聞いたことがある。
「日常生活から常にテロを警戒しろ。テロリストは何食わぬ顔をして隣りにいる。ワシは常にその覚悟だ」
大真面目な顔してそんなこと言う。酔っ払ってるわけじゃない。完全に素面で喋ってる。アンタがまず第一の警戒対象やで、とは恐ろしくて口に出せない。お願いだから黙っててほしい。できれば動かずにいてほしい。超絶美青年なのに何もかも台無しや。
【つづく】
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