30.はじめての経験・雨乞い~不毛なことには変わりなし2
「リカ殿、何とかしてたもれ。最近空気が乾燥しておって、余は喉の調子が悪いのじゃ」
桃太郎がぼやく。確かに最近、雨が降らない。
「たもれってアンタ……アタシに訴えられても。それよりコレ、何なん? 夜な夜な拾いに行ってるらしいけど、壊れた電化製品であの人は何をしようとしてんの?」
「いや、あの……考えはあるらしいけど?」
「間違いなくゴミ屋敷やで。テレビ局に電話したら、ワイドショーが取材にくるで? このアパートだけでゴミ屋敷特集組んでもらえるかもな。アタシも感電少女として出演オファー相次いだりして。フフ……ハハッ……」
投げやりな調子で言ってたら、突然竹林がガサガサ鳴った。
「何奴っ!」
桃太郎が声を張り上げる。瞬時にアタシの背に身を隠しながら。
「桃太郎、アンタな……」
そんなアタシらのすぐ脇で竹林が割れた──ように感じた。ドサッと音立てて、重い塊が地面に転がる。
「かぐやちゃんッ!」
オキナが叫んだ。かぐやちゃん、今日も突飛な登場だ。
「な、何があったの?」
オキナに助け起こされてかぐやちゃん、ハァハァ言ってる。
「雨乞い……雨乞い……」
途切れ途切れの呼吸の中で何かブツブツ言っている。はて、雨乞い?
「か、かぐやちゃん? 大丈夫か?」
かぐやちゃんはハッと我に返り、キョロキョロ周囲を見回した。
「どこまで息を止められるか、頑張ってた」
「……そうなんや」
一瞬やけど心配したアタシのこの気持ちはどこで昇華されればいいんやろ……。この変な人、何だか突然喋り始めた。
「現代社会はテロの脅威と常に隣り合わせだからな。車内やオフィス内で、神経ガス噴霧テロに遭遇した場合の最善の対処法についてレクチャーしよう」
「はぁ……」
どうでもいいけど、かぐやちゃんの口から現代社会とかオフィスという言葉を聞くと何か違和感が……。
マシンガントークは容赦なく続く。止めどころを逸してしまって、アタシらはボケーッとかぐやちゃんの声を聞いていた。
「まずハンカチ、冬ならマフラーに手持ちの水やお茶を含ませて口元にあてがう。呼吸は浅く行え。大抵の神経ガスは空気より重い。だからなるべく背伸びをして、上を向いて外へ向かうんだ。外へ出れば着ているものを全部脱いで、躊躇なくゲロを吐け。衣服に付着した、或いは体内に入ったガスの粒子を出す為だ」
「フ、フーン……」
ソレ、想像したらすごい光景や。大勢のハダカの人がゲロ吐きまくってる現場か。
ふと視線を感じて上を見ると、2階の窓から小柄な少年(っぽい)人物がこっちを見下ろしているのが見えた。あれは花阪Gだ。ガラス越しに声は聞こえないが、ずっと口が動いている。
──怖ッ。確かに目が合った筈やけど、アタシはそれをスルーした。