31.ひたすら忠犬のごとく~義兄の不毛な性癖1

【HJMG!不毛さん94】
31.ひたすら忠犬のごとく~義兄の不毛な性癖1
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 暑い朝。後から思い返せばアタマ湧いてた発言。

「アタシ、デートを見守ってばっかりやん。1回アタシ自身がデートしたいねん」

 桃太郎がしなっと足を折り曲げた。

「ま、まさか余を……」

「違(ちゃ)うわ! 何で怯えた目でアタシを見るねん!」

 アタシは怒鳴る。桃太郎なんて論外や。ありえへん!

 このアパート内で考えると……うん、そうや。見た感じだけならかぐやちゃんが断然いいけどな。ああ、花阪Gも可愛いかんじやな。勿論それも見た目だけ。

「うちはお姉があんな感じやろ。だからアタシ、ずっと弟が欲しかってん。カワイイ弟な」

 そう言うと桃太郎はポッと頬を赤らめた。

「……間違ってもアンタみたいな人間違(ちゃ)うで。て言うか、アンタ年いくつなん?」

「余、余は桃から生まれたので……」

「それは分かったって! いや、分からんけどいいわ。だから、何年前に桃から生まれたん?」

 桃太郎は年齢不詳の顔をおかしな具合に緩ませた。

「余には幼少期の記憶が……。母君が不慮の事故で痔になったという噂がゴニョゴニョ」

 誤魔化している。

 しばらくムニャムニャ言ってから桃太郎はパッと顔をあげた。アタシの顔をじっと見る。

「姉君っ!」

「アタシはアンタのお姉ちゃんでも、お母さんでもないわッ!」

 奴の頭をパシッと叩く。ああ、不毛なやり取りした。もういいわ。自分で自分が恥ずかしくなって、アタシは部屋を出た。桃太郎が慌てて追って来る。

「姉君、どこへ!」

「トイレや! 姉君違(ちゃ)うし、付いて来んな!」


 ──しかし、今日の不毛騒動はそこだけでは終わらなかった。階段降りてトイレまで来てから、アタシのガッカリ度は更に増幅した。内股でうらしまが身をくねらせている。トイレの前をウロウロ歩いてる。誰が長便なんやと思ったけど、中に人の気配はない。

「何してんの、うらしま? 入ったらいいやん」

「あっふ……ん、もうちょっと……」

 何でや? 奴は限界間際の顔だ。額から血の気が引いている。でも表情はどこか嬉しそうだった。コイツ、最近お姉に構ってもらえないもんやから、遂に自分で自分を苛めだしたか。

「お、己に極限までの我慢を強いている……いや、強いられているという快感。更にその後の放尿の快感…二重の悦びのためにぼ、僕は今……」

 冷や汗がダラダラ流れていた。いいわ、放っとこ。そう思ってトイレのドアノブに手をかけた時だ。突然お姉がやって来た。ドスドスと足音が荒い。珍しくご機嫌斜めの様子。手には荷造り用のヒモを持っていた。やたらキョロキョロ、辺りを窺っている。

 ヤバイ、怖い! 16年間、身に染み付いた危機意識でアタシは咄嗟に柱の影に身を隠した。

「キャハァーーッ!」

 逃げ遅れたうらしまが捕まっている。キャーと悲鳴をあげながらも、奴は嬉しそうだ。

 お姉は物も言わずに奴をふんじばっている。細いヒモなので食い込みがキツイのだろう。奴はキャーキャー嬌声をあげながら引きずられていった。

 ゆっくりトイレをすませて出てくると、今度は建物自体がカタカタ振動していることに気付く。ドンドンと音が響き、その度に天井からゴミやホコリが落ちてくる。

「屋根の上に何かいる!」

つづく

   

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