31.ひたすら忠犬のごとく~義兄の不毛な性癖1
「アタシ、デートを見守ってばっかりやん。1回アタシ自身がデートしたいねん」
桃太郎がしなっと足を折り曲げた。
「ま、まさか余を……」
「違(ちゃ)うわ! 何で怯えた目でアタシを見るねん!」
アタシは怒鳴る。桃太郎なんて論外や。ありえへん!
このアパート内で考えると……うん、そうや。見た感じだけならかぐやちゃんが断然いいけどな。ああ、花阪Gも可愛いかんじやな。勿論それも見た目だけ。
「うちはお姉があんな感じやろ。だからアタシ、ずっと弟が欲しかってん。カワイイ弟な」
そう言うと桃太郎はポッと頬を赤らめた。
「……間違ってもアンタみたいな人間違(ちゃ)うで。て言うか、アンタ年いくつなん?」
「余、余は桃から生まれたので……」
「それは分かったって! いや、分からんけどいいわ。だから、何年前に桃から生まれたん?」
桃太郎は年齢不詳の顔をおかしな具合に緩ませた。
「余には幼少期の記憶が……。母君が不慮の事故で痔になったという噂がゴニョゴニョ」
誤魔化している。
しばらくムニャムニャ言ってから桃太郎はパッと顔をあげた。アタシの顔をじっと見る。
「姉君っ!」
「アタシはアンタのお姉ちゃんでも、お母さんでもないわッ!」
奴の頭をパシッと叩く。ああ、不毛なやり取りした。もういいわ。自分で自分が恥ずかしくなって、アタシは部屋を出た。桃太郎が慌てて追って来る。
「姉君、どこへ!」
「トイレや! 姉君違(ちゃ)うし、付いて来んな!」
──しかし、今日の不毛騒動はそこだけでは終わらなかった。階段降りてトイレまで来てから、アタシのガッカリ度は更に増幅した。内股でうらしまが身をくねらせている。トイレの前をウロウロ歩いてる。誰が長便なんやと思ったけど、中に人の気配はない。
「何してんの、うらしま? 入ったらいいやん」
「あっふ……ん、もうちょっと……」
何でや? 奴は限界間際の顔だ。額から血の気が引いている。でも表情はどこか嬉しそうだった。コイツ、最近お姉に構ってもらえないもんやから、遂に自分で自分を苛めだしたか。
「お、己に極限までの我慢を強いている……いや、強いられているという快感。更にその後の放尿の快感…二重の悦びのためにぼ、僕は今……」
冷や汗がダラダラ流れていた。いいわ、放っとこ。そう思ってトイレのドアノブに手をかけた時だ。突然お姉がやって来た。ドスドスと足音が荒い。珍しくご機嫌斜めの様子。手には荷造り用のヒモを持っていた。やたらキョロキョロ、辺りを窺っている。
ヤバイ、怖い! 16年間、身に染み付いた危機意識でアタシは咄嗟に柱の影に身を隠した。
「キャハァーーッ!」
逃げ遅れたうらしまが捕まっている。キャーと悲鳴をあげながらも、奴は嬉しそうだ。
お姉は物も言わずに奴をふんじばっている。細いヒモなので食い込みがキツイのだろう。奴はキャーキャー嬌声をあげながら引きずられていった。
ゆっくりトイレをすませて出てくると、今度は建物自体がカタカタ振動していることに気付く。ドンドンと音が響き、その度に天井からゴミやホコリが落ちてくる。
「屋根の上に何かいる!」
【つづく】
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