32.鉄ゲタ事件~不毛ヘンタイ兄妹参上!1

【HJMG!不毛さん97】
32.鉄ゲタ事件~不毛ヘンタイ兄妹参上!1
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 桃太郎がコソコソ出て行ったのを横目に、アタシは気にも留めず音楽聞いてた。

「泣けるわぁ。この詩がいいねん。切ないわぁ」

「そぉ?」

 花阪Gがニマッと笑う。この子が昔やってたヘビメタバンドの曲らしい。貧乏すぎて解散したと言っていた。なるほど、詩も貧乏を笑い飛ばすかんじのものばかりや。

 どうでもいいけどこの子、髪が生えるまで家から出ないと言ってたにも関わらず、ツルツル頭でアタシん家居ついてる・何だかずいぶん懐いてくる。

「じぃはちょっとMなの」

「は?」

「じぃはちょっとM(マゾ)気質なの」小さな声で耳打ちしてきた。

「そ、そうなんや……。あの、それが何か?」

 どう返事していいか迷っていたところへ、もう片方の耳に生温かい息がかかる。

「ああああたしもですぅ」

 ワンちゃんだ。Gの小さな声が聞こえていたらしい。M気質という単語に彼女も反応した。

「ボ、ボクも!」オキナも嬉しそうに同調する。黙れや。アンタのそれは周知の事実や!

「お、俺もです」

 カ、カメさんまでー?

「だから何でアンタら、アタシにそういう告白すんの? どう切り返してほしいん?」

 そう怒鳴ると、みんな思い思いの格好のまま照れ笑いをした。

 そもそも何でみんな、アタシの部屋に集まってくるの? 確かにワンちゃんとGに関してはは雨漏りの掃除が大変やから、片付くまでここで暮らすことを認めた。でもカメさんと、オキナまでいると狭い上に暑苦しい。そうこうしてたら、今度はかぐやちゃんが入ってきた。アタシの部屋だけどこの人、完全に我が物顔や。

「アハハ、かぐやちゃんは完全にSタイプやな」

 なんて言うとオキナやワンちゃんがうんうんと頷く。しかし当のかぐやちゃん、何が起こっても絶対に周囲の状況を読もうとしない。

「履け!」短い言葉と共に目の前にドン! ものすごい重量感ある物が置かれた。

「あの、コレは……?」


 メタル色の板──7×20センチくらいのサイズのもの。厚みも3センチばかりある。片面に2本の小さい板が並んでくっ付けられ、もう片面にはヒモが結わえてある。

 これはどう見ても……。

「ゲタですか…ゲタ? ですかね…」

 かぐやちゃん、自信満々の様子でもう一度言った。

「履け!」

 何なん、この人? そう思ったけど、鬼気迫るその表情にアタシは恐れをなしたわけだ。

「うわ、重ッ!」

 鼻緒の部分をつまんで持ち上げようとして、アタシは悲鳴をあげた。何このズッシリ感。このゲタ、重い! 片手で持てない。

「当然だ。鉄ゲタだからな」


 いいな、1日中履き続けろ。かぐやちゃんはそう言って、何とも言えない悲壮な目つきをしてアタシのお腹あたりに視線を落とした。

つづく


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