11.不毛サスペンス~コインランドリーでオカシナ体験4
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「ううう歌いましょう!」
ワンちゃんの提案に、桃太郎がリズムをとる。アタシは声を張り上げて歌った。
「もーっもたろさんっ、ももったろさん。おっこしにつけたきりたんぽ~」
オールド・ストーリーJ館に到着した時、アタシらは息を切らしていた。かなりの運動だ、これは。洗濯物が濡れているから重いし、地面につけたら汚れるから速度も求められる。
しかし必死で走った甲斐あって、アタシが巻いてた洗濯物はほぼカンペキに乾いていた。こちらも息を切らしているワンちゃんと手を取り合って喜ぶ。達成感、凄まじい!
かなり時間が経ってからだ。ポテポテ足を引きずり、ゼェゼェ言いながら見苦しい様相で桃太郎が帰ってきたのは。
「ゼーッ。す、水分を含んで布が重く……ゼーッ。走れぬ。う、動くことも敵わぬ……ゼーッ」
引きずられた洗濯物はドロドロだ。文句も言いたいところだが「ゼーッ、ゼーッ」とものすごい呼吸音を振り絞っている桃太郎には、ちょっと声をかけにくい雰囲気がある。ワンちゃんがコソッとアタシに耳打ちした。
「よよよ夜中にやってる映画を何気なく見ていたら、オッサンが美少年に迫られてるんですぅ。オジサン、初めてなの? ボクが教えてあげるから大丈夫だよとか言われてコトが始まって、オッサンのお尻がペロンと出たとこらへんでお父さんがトイレに下りてきて、一瞬ギョッとしたように画面見て、何か言いたそうにあたしを見てから結局黙ってトイレに入っていった──その後姿を見送るような気まずさがありますね。ももも桃さまって意外とトロいんですね」
ヒィヒィ言ってる桃太郎を見てウットリしている。
「……ゴメンやけどワンちゃん、アタシにその経験はないわ」
その夜遅くのこと。
アタシがフトンを敷いているとお姉がやって来た。ゲッソリやつれ、顔は青白い。目だけが爛々と輝いている。重度のゲーマーは時々こういう顔をするのだ。聞いてもないのにお姉はこう言った。
「3日間……のべ54時間であらかたのことはしたわ。少し休んで、今度はじっくりやりこむつもりよ」
「はぁ……」
「それはそうと、おかしな噂を耳にしたのだけど?」
そこでお姉、ジロリとアタシと桃太郎を睨む。
「な、何でしょう」
正に蛇に睨まれた蛙。タオルケットにくるまっていた桃太郎ですら、起き上がって正座した。
「おかしな4人組が体中にヒラヒラつけて、歌いながらうちのアパートに入っていったって」
「あ、それは……」シラを切ろうと思っていたのに、桃太郎が致命的な台詞を吐く。アカン、桃太郎! 目配せしたがダメだった。「それには理由が……」
「やっぱりアナタ達ね」お姉、ゲーム明けの壮絶な容貌でニタリと笑う。怖すぎる。
「ん、ちょっと待って。4人って?」
洗濯物を全身に巻いて歌いながら町を駆け抜けたのはアタシとワンちゃん、桃太郎──3人の筈。
「まさかあの若者も?」
心音がドキリと高鳴った。
「若者? 何その言い方。アラアラ……男ですか」
お姉が目を細めた。突然いやらしげな敬語になる。
「違(ちゃ)う違(ちゃ)う。何もないわ」
そう言ったものの、アタシはちょっとドキドキしていた。
あの人、アタシらと同類やったんや。
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