12.不毛な予感~変だか恋だか、だからそんなかんじ?1
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「なんや、コレ! ええかげんにせぃやッ!」
お姉が突然キレた。「ガーッ」と叫んでレジカゴを放り出す。
「どんだけ並ばせんねん! もう待たれへんわッ!」
──ああ……この人、関西弁忘れてなかったんや。
アタシはちょっと感激した。
○○食パンに付いてるシールポイントをどうしても集める。30点でもれなく貰えるプレゼントのトートバッグがどうしても欲しい──言い出したのは姉だ。普段来ないちょっと遠いスーパー「大ハナ」。お姉とアタシは炎天下を延々四十分歩いて、ここまでやって来たのだ。
目的の食パンを見付けてレジに来たら、これがとんでもない行列。30程あるレジ全てに対して通路沿いにズラーッと人が並んで、信じられないことに最後尾は奥の突き当たり。ここまで来たんだからと一応並んだものの、二十分経ってもほとんど前進しない。で、お姉はキレてしまったわけだ。インケンなお姉が直情的にキレるなんて珍しい。
お姉はカゴを放り出した。周りの人に「カーッ!」と歯茎見せて威嚇しながら、ズンズン足を踏み鳴らして出て行ってしまった。
「ちょっ、お姉……ちょっと待って」
残されたアタシに、なぜか非難の視線が集中する。すごい不本意や。カゴを拾ってアタシ、途方に暮れてしまった。
そして2時間後──。
「ブベッ……シュッ!」
お姉、すごいクシャミしてから「パーッ、カッ!」と叫んだ。
「あ、あのなぁ……」
言いかけたアタシをお姉、ジロリと睨む。
「女はオッサンみたいなクシャミをしてはいけないって言うの? 女だけに上品なクシャミを強要するの?」
「いや、そうは言わへんけど、でも……」
「女の行動の一つ一つに、かくあるべきなんて旧時代的な注文をつけるつもり? それも同じ女であるアナタがッ!」
「……もうええわ。好きなようにクシャミしてください」
フンフンッ! 派手に鼻をかんで、お姉はようやくスッキリしたらしい。タイミングを見計らって、アタシは食パンの袋を渡した。
「いいわ、今度からスーパーにはうらしまに行くよう頼んでみるから」
また好き勝手言い出した。うらしまにとっては強制であり、絶対命令である言葉なのに、行かせるとか買わせるとか言わないところがこの人の性質(タチ)悪いところや。人間としてどうかと思う。それより必死の思いで四十分間レジに並んでパンを二つ買ってきた忠実な妹(アタシ)に対して、労いの言葉はないの? これじゃアタシ、報われない。
「それより聞いて! こないだ道でぶつかった失礼な男にまた会ってん。コインランドリーにいたあの赤毛や。アタシが列に並んでんの、横入りしようとしてきてんで!」
「アラアラ、アラアラ」
「ムカツクわーッ!」
思い出して、怒り爆発。
「ボク、こんだけしか買わないんだから前に入れてよ~」
そう言って、奴はアタシの前に割り込んできたのだ。カゴの中はバルサンばかり。何や、ソレと思いながらもアタシは自分のカゴで奴を押し退けた。
「アタシも食パン2個しか買わへんねん。でもちゃんと待ってる。アンタもちゃんと並び!」
「フ~ン、心の余裕のないヤツ~」
「40分も並ぶと心の余裕もなくなるわ。みんなちゃんと並んでんねん。それに他の人ならともかく、アンタだけは絶対イヤや!」
そう怒鳴ると片目を瞑ってアカンベをしてから、横の列の気のいいオバチャンに話しかけて前に入った。後ろの人達、舌打ちしてる。
「またもや不愉快な思いしたわー。何なん、アイツは」
姉の部屋にうず高く積みあがるゴミの中からペットボトルを引き当てて、アタシはソレを一気に飲んだ。よく冷えてるのは何故? そんなアタシを眺め、お姉が見たことない気持ち悪い笑顔を浮かべる。
「アラアラ、偶然ね。何回も会うなんて、縁があるんじゃない?」
「縁? そんなもん、あってたまるか!」
「アラアラ、そういう相手に限って意外と恋が芽生えたりして」
「芽生えるか、そんなもん……えっ、恋ッ?」
【つづく】
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