不毛というより、恐怖~ゴキブリ天国1

【HJMG!不毛さん37】
13.不毛というより、恐怖~ゴキブリ天国1
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「建物中、くまなく掃除をしましょう」

 カメさんが静かに提案した。
 目が真っ赤になってる。丸一日寝ていないようだ。

 部屋を片付けても片付けても、すぐにまたお姉が散らかすのだ。
 更にうらしまもいつもの調子で邪魔をしてくる。
 お姉にたかるホームレスだと信じているカメさんはその撃退にも必死だ。
 そして遂に夕べは泊り込んだらしい。夜も寝ずに片付けまくったとか。

「カメさん、かわいそうやん!」

 翌朝、その悲惨すぎる実態を知ったアタシは、恐ろしいお姉に向かって叫んでいた。

「どうせお姉は手伝いもせずにゲームしてたんやろ? あんまりやん! カメさんもやめとき。て言うか、あきらめ。この人はアカンもん。ダメな人やもん。掃除するだけムダやで!」

 アタシは一気にまくし立てた。

「いいえ、無駄なことなどこの世に何一つとしてありません。大家さんに悪気はない。習慣と性格だから……仕方ありません」

「アカンて。カメさん、いい人すぎるわ!」

 ピンクの割烹着の肩をつかんで揺さぶった。目を覚ませ、カメさん! そう願いを込めて。

 そこへお姉、ズイッと顔を出す。目を細めて、怒りの表情だ。

「あなた、随分大きな口を叩くのね。偉いのねぇ?」

「いや、あの……」
 ヤバ。コワイ。
「ごめんなさ……」

 謝ろうとしたが、うちのお姉、復讐はしっかり果たすタイプや。

「わたしに意見をできるのは、きっちり家賃を払ってる人だけよ」
 強い調子で宣言する。うらしまじゃないけど、そう来られてはアタシとしても土下座するしかない。
「アナタ、ここに何日タダで住んでると思ってるの? イヤな子ね」

「ス、スイマセ……」

 姉妹でも容赦ないな、この女。
 仕方ない。アタシは腹を括って床におでこを擦りつけた。

「お姉、こんな時に何やけど……家賃以前の話やねんけど……おこづかいくれへん? カメさんにはお給料払ってるんやろ。ならアタシにもちょうだい! こんなにこき使われてんのに! けっこうアタシ、お姉の為に動いてんで?」

 いたたまれず家を飛び出した高校浪人のアタシに仕送りはない。
 今まではお年玉とか貯めてた貯金で食べ物買ったりしてたけど……遂に本日、残高ゼロ円になりました。
 一文無しでぇーす。ハァーイ! やっちゃったー!

 おどけるとお姉は手を叩いて嬌声をあげた。
 しかし……目は笑ってない。
 すごい冷たい視線が、矢のように十六歳のいたいけな少女の身を貫く。こわい……。

「お姉、ごめんなさい。ホンマにごめんなさい……」

 結局、アタシは謝った。

「もっとよ!」

「スイマセン。ゴメンナサイ。アタシが愚かでした」

 オホホとお姉は笑う。

「そうね、お小遣いをあげてもいいわよ」

 圧倒的優位に立ったお姉は、ようやくアタシに救いの手を差し伸べてくれた。

「ホ、ホンマに?」

「ええ」
 にっこり微笑むその笑顔が恐ろしい。
「条件があるわ。カメさんを手伝いなさい。この際だから、アパート中の掃除をするの」

「ハハーッ!」

 アタシは本気で土下座した。

            【つづく

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