不毛な主義、崩壊~ヘンなアンケート4

HJMG!不毛さん55
18.不毛な主義、崩壊~ヘンなアンケート4
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 我を失っているのは分かった。

「やめてあげて、お姉! あの人、今弱ってるねん。いや、それ以前に大家としてそれだけはやめて。訴えられるで!」

 何とかゴのつく茶黒い小さなモノを手放させる。

 ソレは、うらしまの脇をすり抜けて物陰へ入っていった。
 カメさんが来てからそれほど日は経っていない。
 それなのに部屋中うず高くゴミが積み上がってきている。
 なるほど、ヤツらの住処には事欠かないわけだ。

 肌に触れるほど近くをヤツらが通り過ぎていったものだから、うらしまが「ヒッ!」と声を上ずらせている。

 何とも言えん思いを込めたアタシの視線に気付いて、うらしまは上気した顔を向けた。
 いやや、こっち向かんといて。

「オオオオキナは……」
 ワンちゃんが伝染っており、呂律が回っていない。
「オ、オキナはノーパン主義なんだって? ぼ、僕もそうしようかと思ってるんだけど、ど、どう思う?」

「どう思うって? そりゃお好きなようにしてください」

「す、好きなパンツ? それともノーパンツ?」

 ハァハァ言って興奮している。
 嫌な義兄やわ、ホンマに。

「そ、それで? かぐや様は何と?」

 同じくらいハァハァ言ったお姉がアタシの手から手帳をもぎとる。

「わ、分かったって。ちゃんと聞いてきたってば」

 お姉、咳払いしてから深呼吸を繰り返した。

「好きな味噌汁の具──大根。好きなドレッシング──青じそ。好きなフルーツ──りんご。一番の好物──豆と種……」
 お姉の声が段々低くなる。
「リカ、あなた真面目にリサーチしなさいよ。1万円返しなさい」

「い、いやや。返さへん! それ聞き出すのがどれだけ大変やったか……。それにまだマシな答えやで、豆と種は。次読んでみ」

 フムフム、とお姉はページを繰る。

「好きなタイプは? そうよ、これこれ。重要な項目だわ」

「あいえむあいもでるたぼーるにじゅういちしー? こまんだーあさるとかーびん??? どこの国の女優? モデルかしら?」

「それはIMI社製のタボール21Cコマンダー・アサルト・カービンやで。イスラエルが独自開発した新型のアサルトライフルやねん。毎分750発から900の……ってアタシに聞かんといて! アタシにツッこまんといて!」

 これがありのままのかぐやちゃんやねん!

 そう言うと、お姉は「ウグゥ……!」と唸って微妙な笑顔を浮かべた。
 複雑な思いに葛藤しているように見受けられる。

 ゴゴゴ……。
 外からは例の地鳴り──いや、かぐやちゃんの腹の音が響いている。

「ああ、もぅイヤや。ドッと精神的疲労が。アタシはつかれたよ。とても眠いんだ……」

 でもここで寝るのは躊躇われた。
 何せゴのつくモノが大量に潜んでるからな。
 この部屋で意識をなくしたらゴに体中蹂躙されそうで恐ろしいわ。

 アタシはフラフラ廊下へ出た。
 階段を上って自分の部屋へ。

「丸1日戻ってないから、桃太郎もお腹空かせてるかもしれへんな」

 2ー1号室前に来て驚いた。
 表札が「多部リカ」から「桃太郎」になってる。
 何や、コレは。

 玄関の鍵を開けて入ると桃太郎、部屋の真ん中でパンツ一丁で寝そべっていた。
 ボリボリお菓子食べてる。

「お、思いのほかくつろいでんな。桃太郎」

「アッ、リカ殿」

 慌ててズボンをはいている。

「いや、くつろいでんのはいいわ。ムカツクけど、まぁいいわ。けど表のアレ、何なん?」

「え? 何と申されると?」

 貧弱な身体を両手で隠すようにクネクネしている。
 気持ち悪いねん、とぼけんなや! アタシは吐き捨てた。

「表札や! いつからこの家の主は桃太郎になってん!」

「まぁまぁ」
 馴れ馴れしくアタシの肩を叩いた。
「まぁまぁまぁ。些細なことよ」

「ガッ! もっ! クソッ!」

 怒鳴ろうとして、アタシはその場にうずくまった。
 アカン。眠気がたまらん。

 開け放たれた窓からはゴゴゴ……と地鳴りが尚も響いている。
 もうイヤや。



「19.不毛大作戦!2~テロだか何だか、かなりヒドイかんじ」につづく


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