不毛というより、恐怖~ゴキブリ天国4

【HJMG!不毛さん40】
13.不毛というより、恐怖~ゴキブリ天国4
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「桃太郎、アカン! 心を殺しちゃアカンて! 気をしっかり……心をしっかり!」

 桃太郎を抱えて、這うような体で出口に向かう。
 ゴのつくモノの大群に流されるように。

「アッ!」
 途中、桃太郎が悲鳴をあげた。
「メガネメガネ……」

 ゴをかき分け、床を探し回る。
 土下座した拍子に落とした大事なメガネを、ゴの海にさらわれたらしい。

「メガネがないと何も見えぬから、メガネを探すこともかなわぬ」

 すごく筋の通った、真っ当なこと言ってる。

 ほんの少し時をおいて、各居室から「ギャーッ!」と凄まじい悲鳴があがる。
 まだ顔も見たことない住人たちが、一様にゴのつくモノに対して慄いた瞬間だ。

 アパート中に、ヤツらは散ったのだ。


 きっとアタシの部屋にも……。
 そう考えた瞬間、アタシは弾かれたように立ち上がった。
 すぐ隣りの自分の部屋に駆け込んで、ガラリと押入れを開け放つ。

「大丈夫か、法師!」

 ピョン。
 小さなカタマリがアタシの肩に取りついた。
 一瞬ギョッとするものの、それが緑色だと分かり安堵する。
 黒茶色じゃない。
 うん、安心。ゴのつくモノじゃない。

「だ、大丈夫か? 法師」

「アウッ……ウッ……」

 一寸法師はアタシの肩にピタッと張り付いてハラハラ涙を流している。
 遅かったか。
 放心したその様子に、被害はここまで来ていたかとアタシは舌打ちした。
 見ると玉手箱(?)は蓋が半分開いている。
 それがカタカタ動いているではないか。
 中に居るのは──?

「せ、拙者が寝ていたら、いきなり黒茶色の生き物が……黒茶色の生き物が……」

 サイズがサイズだけに恐怖もひとしおだったろう。
 自分と同じ大きさの黒茶色のヤツらが大群で押し寄せてくる──想像もしたくない恐ろしさや。
 箱の中にヤツらがいるのは分かった。
 できればこのまま押入れの戸を閉めて、一生開けたくない──そう思う。
 しかしアタシは意を決した。

「アンタも福の神やったらアタシに感謝して、とびっきりの福……もたらしてや!」

 電光石火のスピードで玉手箱の蓋を閉め、輪ゴムを何重にもかける。
 次の瞬間、窓開けた。

「飛んでけーッ!」
 空に向かって放り捨てる。

「アッ、拙者の屋敷がぁぁーっ!」

 肩のあたりから悲痛な悲鳴があがった。

 玉手箱は青い空に吸い込まれる。

「はぁはぁ。バドミントンで鍛えたアタシの強肩、まだまだ衰えてへんわ」

 そこへドアが開いた。
 コソコソ入ってきたのは諸悪の根源、怠け者女王だ。
 この事態に尚もゲーム機を手放さず、もう片手にゴの胴体をつかみながら変に薄笑いを浮かべている。
 怖い。

「この前からバルサンをしようと思っていたのよ。頼んでいたのにちっとも買ってきてくれなくて……。嫌だわ、わたしのせいじゃないわよ。オホホ」

 珍しく言い訳がましくブツブツ言ってる。
 一寸法師の存在にも気付かない様子だ。

 アタシは呆けて、もう何も聞いてはいなかった。

「14.不毛すぎたカラクリ~間に合わなかったバルサン」につづく

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