不毛な主義~決してパンツをはかない主義の男1

【HJMG!不毛さん50】
17.不毛な主義~決してパンツをはかない主義の男1
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 何だか火がついてしまった。
 一連のかぐやちゃん騒動はここから始まったのだ。

「今からその方を見に行きましょう」

 ワンちゃんが立ち上がった。
 いつにない積極性をみせる。
 言葉もハッキリしていて、声も震えてない。

「アカンて。ワンちゃん」

 アタシの小声での静止なんて聞いちゃいない。
 ワンちゃんのメガネ、爛々と異様な光を放っている。
 アタシのせいや。超絶美青年、でも残念なアタマ…なんて言って複雑な女子のハートを刺激してしまったみたい。

「み、見るだけよ。物陰からコソッと見るだけよ」

 勇猛果敢なお姉が、かつてない弱気な物腰。
 いきなり眉を整えだした。

 心配せんでもかぐや様?
 あの人、他人の姿なんて見えてへん。
 他人の眉毛なんて興味もないで。

「お姉らしくない。悪いこと言わん。あの人はやめとき。だってあの人、自由すぎるもん」

 ……そもそもうらしまの存在は?

 ふと浮かんだ疑問を、アタシは頭の隅に押しやった。

 ともくかアタシら三人は裏庭へとやって来る。
 できれば二度と会いたくないあの宇宙人(もしくは危険レベルの軍事系電波さん)。
 3人で押しかけたらテロと間違われて撃たれかねん。
 いきなり三段蹴りかまされるかも。

「そ、それにしてもこのアパートにこんな庭があったとはな。お姉、開墾してジャガイモ植えよう! 芽を埋めたら、どんな荒地でも勝手に育ってたわわに実つけてくれるで。お姉みたいに物ぐさでも、収穫の喜びを味わいたい人にはピッタリや。食べられるしな。き、聞いてる?」

 話を逸らせようとがんばったけど、ムダだった。
 歩を進めるたびに、足元の地面がだんだんとおかしなことになってきたと気付いたのだ。
 月光の下だと分からなかったけど、昼間見たらスゴイな、この竹やぶ……。
 電化製品だらけだ。
 壊れたビデオデッキとか壊れた炊飯器とか……粗大ゴミ的な物が色々転がっている。
 そして、その中心部に竹でできた小屋が。

「なんか、壮絶な感じや。ダメ人間の臭いが漂ってくる……」

 あのボロ小屋の中に、あの宇宙人が身を潜めてるんやな……。

「奥ゆかしい和風のおうちの中に、かぐや様がいらっしゃるのね」

 アタシら姉妹は同じ家を見て、微妙に違う感想を持ったようだった。


「どどどどんな……どんな人……ハァハァ」

 ワンちゃん、ずり落ちたメガネを押し上げる。
 アタシが襟首つかんで引き止めておかなければ、小屋へと突進していきかねない。

「落ち着き、ワンちゃん。TシャツにKILLで、真っ赤な短パンの裸足男や。近付いたらアカン。近付いたらアカン」

 そうよ、とお姉も同意する。
 もっともこちらはうっとり頬染めて、憧れの目でボロ小屋を眺めているわけだが。
 遠くから見詰めていたいといったところやろか。
 お姉の意外と乙女な一面を見て、アタシは(悪いけど)戦慄した。

 正にその時だ。
 ガサッと藪を踏み締め、アタシらの前に一人の人物が立ちふさがったのは。
 それは恐れていた黒髪の美青年ではない。

「ボクの……ボクのかぐやちゃんに何したのさッ!」

 赤毛の失礼な三十歳──オキナや。
 何コイツ。
 目が血走ってる。
 ハァハァ息切らしてる。
 え? ボクのかぐや……?
 頭の中でその意味を反芻する間もない。

「キシャーッ!」
 お姉が歯を剥いてオキナを威嚇した。

「フシャーッ!」

 お姉に反論(?)してから、オキナはアタシの方を向いてビシッと人差し指を突きつけた。

「夕べ、キミと喋ってただろ。その後かぐやちゃん、急に様子がおかしくなって……」

「か、かぐや様のご様子が?」

 お姉にまでジロリと睨まれ、アタシは生きた心地がしなかった。

            【つづく

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